休み明けモードだったお店もすっかり通常運転に戻り、・・・牧野君も変わらなく接してくれている。わたしも意識しないで全ていつも通り。

 敢えて言うなら。
 あのアパートを引き払い、渉さんのマンションに移ったことは誰にも話していない。由里子さんには流石に報告すべき。とは思うのだけれど。
 それでも言い出せないのは。
 渉さんとの交際に由里子さんが否定的だったら、と考えてしまうから。
 由里子さんは、わたしなんかよりもずっと彼を長く知っている。渉さんには相応しくないと思うんじゃないだろうか。それは牧野君に渉さんを誤解されるよりも辛い。

 バックヤードで一人、誰も居ないと、溜め息を遠慮なく繰り返してしまう。

「お疲れっス」

 わたしはノートパソコンで出納帳の会計ソフトに入力している最中だった。
 商品のストック棚に在庫分を戻しに来たらしく、平べったい箱を4つ重ね持った牧野君が、ドアを開いて入って来た。

「お疲れさま」

「・・・ちょっと回転率の悪いヤツ下げて、入れ替えるんで後で見てもらっていいスか」 

「ん。分かった」

 もともと口数の多くなかった彼と必要以上の会話にならないのは以前も同じで、帰りに送ってもらうのを辞退した以外、何も無かったように。

「織江さん」

「ん?」

 わたしは背中で返答する。

「・・・あの車で送り迎えしてるの、誰スか」

 来た。と思った。
 店の前に車をつけるのは、藤代さんにお願いして遠慮してもらっている。それでも、近くで乗り降りしていればいつかは誰かの目に止まる。訊かれれば嘘は言わない、と決めていた。