「・・・詰まらんな」

「・・・・・・え?」

 軽蔑され、た・・・?
 全身から音を立てて血の気が引いてゆく。心臓も躰も陶器のように生気のないただの塊と化したようで。

 ああ、またか・・・・・・。
 虚ろな思考回路でそう思った。
 所詮わたしは誰にも理解されない。・・・何が普通なのかも分からない。男が何を求めるのかも、どういう女であればいいのかも。
 果歩ちゃんが羨ましい。あんなに素直に怒ったり泣いたり、無邪気に甘えたり。それを許してくれるソウタ君と出会えた貴女が、とても羨ましい。

 わたしには死ぬまで叶わないことだ。
 冷えた心で呟いた。

 次の言葉が決別だろうと、別にどうでも構わない。ぼんやり思った。

「まあいい。お前が云わないなら、俺が言うのを聴いてもらうぞ」

「え・・・」
 
 全く思いも寄らない方向から飛んで来た球に直撃され、倒れて天地が逆さまに見えた。ぐらいの衝撃はあった。

 その時のわたしはまるで幽霊でも見るような顔付きだった、と渉さんは後で笑って教えてくれた。 
 視線が合って、彼は挑むような眼差しでほくそ笑んだ。・・・ようにも見えた。

「これから俺と逢う時は必ず一つ、欲しいものを言え。次も逢いたかったら忘れずにそれも言えよ? それから次は風呂でも啼かせる。後はそうだな、・・・俺が嫌ならいつでも手を放せ。俺からお前を放す事は、死ぬまで無いんでな」

 笑おうと思った。
 笑って、『渉さん、そんないっぺんには無理です』って。なのに先に涙腺が崩壊してしまって。

「・・・相変わらず泣き虫だな」

 ちょっと呆れてるみたいな溜め息が聴こえる。

「俺以外の男の前で泣くなよ、お前」

 横に立った渉さんに頭を抱き寄せられ、ぎこちなく髪を撫でられた。
 それから、まだ涙も乾いていないわたしを軽々と抱え上げてベッドへ。バスローブを脱がせて自分も裸になる。
 わたしをやんわり組み敷いて、涙の跡に優しい接吻を繰り返してくれる。

「欲が無いのも可愛いが、少しは欲張れ。・・・でないと俺が寂しいだろうが」

 耳元で低く・・・ほんの少し甘く、囁かれた。
 わたしの肌を伝う渉さんの唇。指。
 躰が熱で潤む。切ない吐息が漏れる。ああもう・・・わたしはすぐに貴方でいっぱいになる。
 


 渉さん・・・。
 まだ少し怖い。でも一つだけ。
 わたしから手を放すことも死ぬまで無いって。
 ・・・後でちゃんと云わせて下さい。