「・・・他に俺にどうして欲しい」

 こちらをじっと見据えてる渉さんの眼差しに戸惑いながら、問われた意味を懸命に探す。
 他に・・・って。本当にこうして一緒に居られるだけで、ええと、して欲しいことって・・・。 
 頭の中で思い巡らせてみても全く浮かばなくて、これはもう何かの試練なのかと、かなり情けない顔をしていたかも知れない。

「あの・・・。傍に居られればいいんです、他は何も・・・」

 こういう時、普通は何て答えるんだろう。もっと甘えたような事を言えば男のひとは悦ぶんだろうか。
 ・・・甘えるってどうすればいいの。強請るとか欲しがるとか、・・・親ですら拒んだものを他人が赦してくれるものなの? 

 ああ・・・まただ。距離感が計れなくなる。どこまで近づいていいのか、どこにその“線”が張ってあるのか。
 “織江だってオレのこと好きじゃないんだろ”
 蘇る悪夢。
 あの時の彼は、わたしの気持ちが見えなかったと言った。
 そうかも知れない。デートの誘いもひたすら受け身で、相手の都合にだけ合わせていれば嫌われないだろうと思っていた。自分からは求めなかった。
 求めなければ傷付かない。・・・という呪縛からわたしが解き放たれることなど無いのだろう。
 だから渉さんの言葉は・・・わたしを少し瀬戸際に追い詰める。求めるのは怖い。・・・怖いんです。