読み始めると時間を忘れてしまう。気が付いたら窓の外がすっかり薄暗く変わっていた。壁掛け時計を見やる。5時38分。お夕飯、何にしよう。
壁際のパソコンデスクの前から立ち上がり、遮光カーテンを隙間なく閉め直していた時。スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
あんまり突然だったからびっくりして慌てて画面を覗く。果歩ちゃんかも知れない、と真っ先に頭を過ぎった。彼女は仕事の事でも彼氏の相談でも、遠慮なく電話を掛けて来るのだ。しばらく収まってたソウタ君の愚痴かな。見ると知らない番号。はっとして出る。
「はい、もしもし・・・!」
声が上ずってしまう。
『織江か?』
電話越しに低く聴こえた渉さんの・・・声。何かがこみ上げて来て胸がいっぱいになる。嬉しいのに・・・苦しい。目から熱いものが溢れそうになって堪えるのに必死だった。
『あと30分でそっちに着く。アパートの前で待っていろ』
「え? ・・・あ、はいっ」
30分で来る、・・・って?!
用件だけ言って切れた電話にしばし呆然と。
「えぇとお化粧と、うそっ、何着よう・・・?!」
クローゼットの前で焦りながら服を選び、洗面室に駆け込む。
普通の女子なら絶対に間に合わないです、渉さんっ。
もともと薄化粧だし、髪も緩めのウェーブパーマを掛けていたからスタイリングにも時間は掛からない。ぎりぎりで速乾性のマニキュアをさっと塗り、ダウンコートを羽織ってどうにか外に出る。
3分と経たない内にクラウンが目の前に止まった。ドアを開け後部シートに乗り込む。渉さんは黒のシャツにスーツを着ていたけれど、前を開けてネクタイは外していた。
「・・・悪かったな。すぐに連絡してやれないで」
目を細めるようにして少しの間、見つめられた。
わたしは首を横に振るのが精一杯だった。
本当に。こうして逢いに来てくれただけで。流れ去ってしまう。揺れたり惑ったり心細かったりしていた、全てのものが。
「お前の顔がやっと見られた・・・」
一日中でも見入っていられそうな端正な顔立ちが近付いて来て。唇に吐息を感じた。口の中で何度も何度も舌を絡め合う。確かめ合う。離れていた時間を、隙間を埋め尽くそうとするかのように。
キスがこんなに切ないと思えたのは渉さんだけだと・・・思った。
壁際のパソコンデスクの前から立ち上がり、遮光カーテンを隙間なく閉め直していた時。スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
あんまり突然だったからびっくりして慌てて画面を覗く。果歩ちゃんかも知れない、と真っ先に頭を過ぎった。彼女は仕事の事でも彼氏の相談でも、遠慮なく電話を掛けて来るのだ。しばらく収まってたソウタ君の愚痴かな。見ると知らない番号。はっとして出る。
「はい、もしもし・・・!」
声が上ずってしまう。
『織江か?』
電話越しに低く聴こえた渉さんの・・・声。何かがこみ上げて来て胸がいっぱいになる。嬉しいのに・・・苦しい。目から熱いものが溢れそうになって堪えるのに必死だった。
『あと30分でそっちに着く。アパートの前で待っていろ』
「え? ・・・あ、はいっ」
30分で来る、・・・って?!
用件だけ言って切れた電話にしばし呆然と。
「えぇとお化粧と、うそっ、何着よう・・・?!」
クローゼットの前で焦りながら服を選び、洗面室に駆け込む。
普通の女子なら絶対に間に合わないです、渉さんっ。
もともと薄化粧だし、髪も緩めのウェーブパーマを掛けていたからスタイリングにも時間は掛からない。ぎりぎりで速乾性のマニキュアをさっと塗り、ダウンコートを羽織ってどうにか外に出る。
3分と経たない内にクラウンが目の前に止まった。ドアを開け後部シートに乗り込む。渉さんは黒のシャツにスーツを着ていたけれど、前を開けてネクタイは外していた。
「・・・悪かったな。すぐに連絡してやれないで」
目を細めるようにして少しの間、見つめられた。
わたしは首を横に振るのが精一杯だった。
本当に。こうして逢いに来てくれただけで。流れ去ってしまう。揺れたり惑ったり心細かったりしていた、全てのものが。
「お前の顔がやっと見られた・・・」
一日中でも見入っていられそうな端正な顔立ちが近付いて来て。唇に吐息を感じた。口の中で何度も何度も舌を絡め合う。確かめ合う。離れていた時間を、隙間を埋め尽くそうとするかのように。
キスがこんなに切ないと思えたのは渉さんだけだと・・・思った。



