牧野君はテーブルに頬杖をついて、しばらく横を向いたままだった。
 沈黙が続き、5分にも10分にも思えた。
 彼の深い溜め息が聴こえてやっと、こちらに視線を戻す。そして第一声。

「やっぱ諦めないス」

「牧野君・・・っ」

 わたしは眉を寄せ、首を横に振った。

「駄目よ。わたしもあのひとを諦めないもの。意味が無いことは止めて」

「勘違いしないで下さいよ。俺の気持ち押し付けてストーカーやるつもりはないっス」

 冷静な彼。

「・・・たぶん俺が何言っても平行線だし、なら見届けさせて下さいよ。織江さんがホントに幸せなら文句無いんで」

「牧野君・・・・・・」

「俺の気が済んだら諦めるスから。別に邪魔する気も無いし、その辺は信用してもらえないスか」

「・・・・・・・・・分かったわ」

「仕事始まっても今まで通りで」

「それは、・・・うん。・・・わたしもそうしたいし」

 何ていうか。断られた彼の方が強気というか。牧野君て、いつも口数少ないから性格が大人しいのかと思ってた。そう言えば、渉さんも諦めが悪いタイプだ・・・って。どうして分かったのかしら。気取られないようそっと溜め息を漏らす。

「織江さん」

「・・・ん?」

「彼氏さんに伝言いいスか」

「内容によるけど・・・」

「織江さん泣かせたら、ネットとSNS駆使して抹殺しますよ俺。絶対」




 彼は本気で言っていたと思う。

「幸せじゃないと・・・赦さないよ」

 アイスコーヒーを飲み干してポツンと呟く。
 わたしは、どうしてか涙が滲んで来て。誤魔化すように微笑むのがやっとだった。