もし。
 自分に家族が居たら。やっぱりこんな風に心配して反対して。懸命に説得しようとするんだろうか。
 進んで連絡を取る方じゃないから、学生時代の友人達とも自然と疎遠になった。相談事をする間柄は一人もいない。
 目の前の、いつもはこんなに雄弁でもない、ただの気の置ける仕事仲間だと思っていた彼が。わたしの恋は間違っていると真っ向からぶつかって来る。不幸になるのを見過ごせない、と立ちはだかる。

 自分の存在は誰の目にも止まらないだろうと思っていたのに。驚いていた。嬉しくもあった。彼の想いに応えられたなら、ああ、穏やかな普通の幸せを掴めそうだと思う。彼なら。ううん彼にこそ願うわ。わたしで無く、もっと別の、もっと彼をちゃんと見てくれる人と出逢えるように。

 一呼吸おいて。
 わたしが思う事をただ真っ直ぐに、彼に投げ掛けた。

「・・・あのひとが何者でも、人を愛したり誰かを想うのはわたしと同じなの。人格破壊者じゃないわ、優しさだって思い遣りだってちゃんとある。わたしを守る為なら、あのひとは命だって投げ出すんでしょう。そういう人なんだもの」

「・・・それは俺だって、織江さんの為ならするっスよ。嘘じゃないっス」 

「牧野君がそう思ってくれてるのと同じに・・・、あのひともわたしを想ってくれてるの。そういう事なの。・・・同じようにわたしもあのひとを想ってる。不幸ってね、色々な形があるの。あのひとと出逢わなかった不幸に比べたらこの先の不幸なんて、可愛いものなのよ?」

 わたしは心から微笑んで見せた。偽りなく。
 牧野君がわたしを理解しようとしまいと。
 何が間違っていようといまいと。
 
 世間が渉さんをどれだけ冷たく誹ろうと。
 何に傷ついても、何を傷つけても。



 わたしはこれでいい。
 




 
 その瞬間(とき)から。
 わたしの中で蒼くて激しい焔が燃え盛っている気がするの・・・・・・。