「そう言えば、おととい・・・くらいスけど。ヘンな客が来たんスよね」

 呑んでても顔色一つ変わらない唯一の男子スタッフ、牧野君が由里子さんを見やって不意に言う。

「変なお客? 何それ」

「織江さん休みだったじゃないスか。そしたら、髪を縛ってる店員さんは今日はいないのかって。たまに来る客だと思うんスけど」

「気持ち悪いなぁ、どんな人?」

 流石の由里子さんも眉を顰め真顔になった。
 長い髪はわたしだけ。牧野君の話を聴いて、思い当たるお客が居ることを彼女に告げる。

「骨董品を集めるのが趣味だそうで、色々なお店を回るのが趣味だって言ってました。40代ぐらいの大人しそうな男性で何度か話をしました・・・」

「織江さん、それヤバイです。・・・絶対ストーカーです」

 隣りでボソボソっと野乃ちゃんの声がした。彼女はわたしの一歳下で、口数は少ないけれどネットに強くて通販関係を一手に引き受けてくれている。

「個人的な事は教えられないって言ったらすぐ帰ったんスけどね」

 牧野君はわたしに視線を傾げて言った。

「年末って変な人増えるしねぇ・・・。うんっ、ちょっと知り合いに相談してみよっ」

 由里子さんはサッと席を立つとスマホを片手に店を出ていく。暫くして戻った時には上機嫌でⅤサインまでして見せた。

「ガードマンって程じゃないんだけど、閉店時間帯にちょっと見回ってもらえるよう頼んでおいたから織江ちゃんもみんなも安心して? 警察より役に立つと思うし、大丈夫大丈夫」

 さぁ呑も、呑も、と何事も無かったように明るい彼女に牧野君とわたしは顔を見合わせたけど、誰に?・・・なんて事はもちろんお互い口にはしない。
 由里子さんはとても魅力的な女性だけれど謎めいた人でもあった。