「峰さんが織江に会いたがっててな」
余韻に浸る間も無く。さくっと前と同じ車に乗せられ、泣いた顔でそのままだったりなのをアイザワさんが気に留める様子は微塵も無く。彼のペースで淡々と物事が進んでいく。・・・そういう気質の一端を見た気がする。
峰さんというのはあのラーメン屋台の店主さんだと教えられた。
呼ばれた理由・・・に心当たりが無くもないのだけれど。内心で溜め息。
「・・・アイザワさん、その為に来たんですか?」
「まあな。事務所の年越しまで時間も空いたし、ついでだった。・・・織江」
「はい・・・?」
「店の客じゃないんだ、俺の事は名前で呼べ」
「あ、はい。あの、何て呼べば・・・?」
すると上着の内ポケットから名刺を取り出して手渡してくれた。
櫻秀会、一ツ橋三の組。若頭代理、相澤渉(わたる)。・・・と、そうある。桜の紋が金で箔押ししてあって思わずじっと見入ってしまった。
「それと連絡は俺から入れる。アドレスに登録しても構わんが、掛けて来ないでくれ。・・・悪く思うな」
「あ・・・、いえ・・・」
思わず目を伏せる。このひとの傍に居るというのは、こういう事だ。踏み込めない領域が沢山あってこれから思い知る現実も、もっとある筈。
渉さんはわたしの表情に何を思ったか、肩を抱き寄せて言う。
「お前の為だ・・・無闇に係わらせたくない。分かるな?」
「・・・大丈夫です。分かってますから」
小さく微笑んで返す。
それが嘘でも真実(まこと)でも、わたしは信じるだけ。それが出来なけれれば。彼の隣りには居られない。容易いことじゃないと、覚悟は今決めた。
「・・・いい子だ」
低い呟きと一緒に頭の天辺にキスが落ちた。それから額に、・・・唇に。
それでも。わたしが幸せだからいいんです、渉さん。
余韻に浸る間も無く。さくっと前と同じ車に乗せられ、泣いた顔でそのままだったりなのをアイザワさんが気に留める様子は微塵も無く。彼のペースで淡々と物事が進んでいく。・・・そういう気質の一端を見た気がする。
峰さんというのはあのラーメン屋台の店主さんだと教えられた。
呼ばれた理由・・・に心当たりが無くもないのだけれど。内心で溜め息。
「・・・アイザワさん、その為に来たんですか?」
「まあな。事務所の年越しまで時間も空いたし、ついでだった。・・・織江」
「はい・・・?」
「店の客じゃないんだ、俺の事は名前で呼べ」
「あ、はい。あの、何て呼べば・・・?」
すると上着の内ポケットから名刺を取り出して手渡してくれた。
櫻秀会、一ツ橋三の組。若頭代理、相澤渉(わたる)。・・・と、そうある。桜の紋が金で箔押ししてあって思わずじっと見入ってしまった。
「それと連絡は俺から入れる。アドレスに登録しても構わんが、掛けて来ないでくれ。・・・悪く思うな」
「あ・・・、いえ・・・」
思わず目を伏せる。このひとの傍に居るというのは、こういう事だ。踏み込めない領域が沢山あってこれから思い知る現実も、もっとある筈。
渉さんはわたしの表情に何を思ったか、肩を抱き寄せて言う。
「お前の為だ・・・無闇に係わらせたくない。分かるな?」
「・・・大丈夫です。分かってますから」
小さく微笑んで返す。
それが嘘でも真実(まこと)でも、わたしは信じるだけ。それが出来なけれれば。彼の隣りには居られない。容易いことじゃないと、覚悟は今決めた。
「・・・いい子だ」
低い呟きと一緒に頭の天辺にキスが落ちた。それから額に、・・・唇に。
それでも。わたしが幸せだからいいんです、渉さん。



