この世の終わりみたいな顔をして云うな、と苦そうな笑みが彼の口の端を掠めた。
 次の瞬間、強い力で引き寄せられ口を塞がれる。容赦なく奪われる。入り込んで来る舌に埋め尽くされ浸食されてゆく・・・・・・。

 答えを。言葉で聴きたかった。
 これは答えなのかと・・・訊きたかった。
 両頬を大きな掌で掴まえられ、角度を変えては幾度も幾度も深いキスで繋がる。
 泣きたいような苦しいような。胸が潰れそうに、この激しい心の波は何?
 奥の奥からどんどんせり上がって来るの。貴方でいっぱいになるの、どこもかしこも。貴方のことしか要らなくなるの、何がどうなっても。

 怖いの・・・・・・。
 それしか見えなくなってしまうのは。
 失ったら・・・生きてゆけなくなってしまうから。
 ずっと一人と決めていたのに。

 
 唇で応えながらわたしが零した涙を。貴方が知らなければいい・・・・・・。
 



 
「・・・いいのか。俺はこういう男だぞ」

 やがて躰を離して、わたしをじっと見つめながらアイザワさんは言った。
 一瞬。言葉に迷った。
 極道の貴方とは、相容れない隔たりもきっとある。それでもいいのかとわたしに選ばせる。残酷なひと。

「・・・・・・傍に居させてください」
 
 運命。と云うなら。決まっていたのでしょう、貴方と出逢えたあの夜に。

「お前が望むことは何もしてやれん」

 何一つ望んだりはしない。そんなものは疾うに諦めがついたわ・・・・・・。

「その代わり心は全部くれてやる。・・・お前が持っていろ」

 目を細めるようにして云ってから、少し上を仰ぐように。


 このひとの人生も命も、彼が守りたいものの為に在るのでしょう。
 わたしの為だけには生きてくれないでしょう。
 死ぬ時も、別れ別れになるのでしょう。
 でも。
 心は全部わたしが持って逝ける。

 教えてください。それ以上いったい何を欲しがればいいでしょう?
 

「・・・何だ、また泣いてるのか。お前は泣き虫だな、織江」

 困ったように。貴方が仄かに微笑んで見えた。溢れて止まらない涙の向こうで。