「・・・悪いが織江は取り込み中だ。用は済んだろう? 子供はもう家に帰れ」
わたしを抱き込んだまま、頭の上でアイザワさんの声がする。
はっとして牧野君を思い出した。
「牧・・・っ」
躰を離そうとしたのにびくともしない。
「一応言っておく。織江は俺の女だ、変な気は起こすなよ・・・?」
俺の女。確かにそう聴こえた。淡々とした口調。・・・本気で? ううん分からない・・・!
そのすぐ後、ガシャンという音がして、タイヤがアスファルトに擦れる音があっという間に消え去った。
「全く。隙だらけだな・・・お前は」
溜め息雑じりに呟かれ、ようやく躰が離れる。
おずおずと顔を上げると少し険しそうな表情のアイザワさんと目が合った。
「男が理由も無く女を家まで送ると思うなよ。お前に親切なのはどれも下心だ。いい加減、学習しろと言った筈だが」
「・・・・・・・・・」
何も云えなくなって俯く。
だって牧野君とはずっと一緒に仕事してきて、そんな素振り見せた事も無かったし、これまでの信頼関係を崩すようなリスクを冒してでもなんて、彼が考えるとは到底思えなかったのに。
休み中に一度会ってきちんと話をしなくちゃ・・・。
牧野君はその・・・友人としても職場の仲間としても、果歩ちゃんや野乃ちゃんと同じくらい大事に思っているけれど、お付き合いは出来ないの・・・。ごめんなさい、わたしには好きなひとが・・・・・・。
自分で思い浮かべた言葉に躊躇する。
怖い。今ならまだ間に合う? 耳を塞いで、眼を閉じて。感じる心を全て殺したなら、アイザワさんを記憶から消し去れる?
好きなひとなんていない。わたしは一人で生きて独りで死ぬんだもの。一人でいいの、わたしは一人で。
今まで幾千回と自分に言い聞かせてきた思いが、躰中に木霊している。
「・・・織江?」
ああ。その声。もう耳を塞いでも無駄なのね。
「泣いてるのか」
わたしの顎に手を掛けて上を向かせる。貴方の顔、もう瞼の裏に焼き付いているの。
それならば。この想いと心中するわ、報われようと報われまいと。
「わたしは・・・・・・あなたが好き、なんです」
わたしの好きなひとは貴方です、アイザワさん。
ごめんなさい、牧野君。
ごめんなさい。由里子さん・・・。
わたしを抱き込んだまま、頭の上でアイザワさんの声がする。
はっとして牧野君を思い出した。
「牧・・・っ」
躰を離そうとしたのにびくともしない。
「一応言っておく。織江は俺の女だ、変な気は起こすなよ・・・?」
俺の女。確かにそう聴こえた。淡々とした口調。・・・本気で? ううん分からない・・・!
そのすぐ後、ガシャンという音がして、タイヤがアスファルトに擦れる音があっという間に消え去った。
「全く。隙だらけだな・・・お前は」
溜め息雑じりに呟かれ、ようやく躰が離れる。
おずおずと顔を上げると少し険しそうな表情のアイザワさんと目が合った。
「男が理由も無く女を家まで送ると思うなよ。お前に親切なのはどれも下心だ。いい加減、学習しろと言った筈だが」
「・・・・・・・・・」
何も云えなくなって俯く。
だって牧野君とはずっと一緒に仕事してきて、そんな素振り見せた事も無かったし、これまでの信頼関係を崩すようなリスクを冒してでもなんて、彼が考えるとは到底思えなかったのに。
休み中に一度会ってきちんと話をしなくちゃ・・・。
牧野君はその・・・友人としても職場の仲間としても、果歩ちゃんや野乃ちゃんと同じくらい大事に思っているけれど、お付き合いは出来ないの・・・。ごめんなさい、わたしには好きなひとが・・・・・・。
自分で思い浮かべた言葉に躊躇する。
怖い。今ならまだ間に合う? 耳を塞いで、眼を閉じて。感じる心を全て殺したなら、アイザワさんを記憶から消し去れる?
好きなひとなんていない。わたしは一人で生きて独りで死ぬんだもの。一人でいいの、わたしは一人で。
今まで幾千回と自分に言い聞かせてきた思いが、躰中に木霊している。
「・・・織江?」
ああ。その声。もう耳を塞いでも無駄なのね。
「泣いてるのか」
わたしの顎に手を掛けて上を向かせる。貴方の顔、もう瞼の裏に焼き付いているの。
それならば。この想いと心中するわ、報われようと報われまいと。
「わたしは・・・・・・あなたが好き、なんです」
わたしの好きなひとは貴方です、アイザワさん。
ごめんなさい、牧野君。
ごめんなさい。由里子さん・・・。



