「二人で? ・・・あ、折角なら野乃ちゃんも誘ってみない? 果歩ちゃんはソウタ君と行くと思うから三人でどう?」

 仲間内の“お誘い”なんだと思い込んでいた。何も考えず、人数が多い方が楽しいだろうとか見当違いにも程があったのに。
 牧野君の表情が少し変わった事に気が付いて、わたしは少し息を呑んだ。まさかと思っていた。彼がこうまでしてくれたのは単なる厚意だと。

「あの、・・・牧野、君」 

「俺と付き合ってくれないスか、織江さん」

 彼ははっきりとわたしに告げた。視線は地面に落ちていたけれど、しっかりとした口調で。 

「ずっと好きだったんで」

 わたしを。好き・・・?
 言葉は理解できていた、ちゃんと。だから異性として意識した事が無いという明確な答えも冷静に弾き出せた。どんな言い回しをしたところで牧野君の望みには添えない。でも。この先も一緒に仕事をしていくのにどうしたらいい。これからもずっと好い友達で、なんて理屈が通るだろうか。

 頭の中で必死にシミュレーションする。最悪な結果だけは避けなくては。
 押し黙ってしまったわたしに、牧野君は無情にもまだ矢を射かけて来る。

「・・・好きな人、いるんスか」

 瞬間。心臓が大きな音を立てた。“彼”が過ぎって、わたしの心を容赦なく揺さぶる。
 いいえ。違う。だってもう忘れるって決めたんだもの。だからあの日、あの場所に・・・!
 口許に当てた手をぎゅっと強く握り込んで眸を歪める。

 どうして。どうして、居ないって言わないの。あのひとだってわたしの事なんかとっくに忘れてる。由里子さんの為に助けただけの事だもの。ただの“通りすがり”でしかないって分かってるじゃない・・・! 好きとかそういうのじゃない、違う、・・・違うの・・・っ!

「わたし、は・・・」

「・・・そんな処で何してる、織江」

 不意に暗がりからした声に。耳を疑った。嘘。だって。居る筈がないのに。どうして。どうして貴方が。ここに居るの・・・。

「・・・・・・アイザワ、さん・・・」



 
 貴方を非道いひとだと思ったのは・・・、あの時だけです、渉さん。