部屋に入り、しっかりと施錠を確認してからバッグを置き、一人用のダイニングテーブルの前に腰掛けた。
 広げた若草色のタオルハンカチの上には、吸殻が一本。 
 どうしてか。絶対に彼だという確信めいたものがあった。
 わざと残していった、自分の痕跡を。おそらくわたしが部屋に居ようが居まいが。
 吸殻には靴で踏みつけられた跡は無い。何かで火を消してからそこに落して行った。わたしに自分だと気付かせる為に・・・?

「・・・・・・忘れろって言ったのは、アイザワさんじゃない・・・」

 どうして。
 
 それともこれがクリスマスの、・・・聖夜の贈り物だとでも云うの?

 欲しくなかった、そんなもの。

 忘れようとしてた。忘れるしかないって。

 この部屋に戻るたびにあのキスを打ち消せないで。

 苦しくて苦しくて、どんどん忘れられなくなってしまうの。

 


 わたしの手の届かない遠い世界のひとだと云うなら。


 もう二度とここには降りて来ないで。


 もう独りにしておいて。寂しいって言葉を思い出させないで。


 欲しくて欲しくて、求めて止まなかったものを。叶わない絶望を。


 わたしの胸に灯すのは、・・・もうやめて。