わたしはわざと。自分を渉さんの枷にした。少しでも貴方の手足にぶら下がって、簡単には死に急げないように。心残りになるように。

 渉さんは僅かに目を見張ってから。無造作に前髪を掻き上げる。目を細めてわたしを見据えた後、大きく溜め息を逃した。

「・・・織江には敵わねぇよ」

 言い終わらない内に、強く片腕で抱き寄せられ。わたしの肩口に渉さんの顔が埋まる。

「恨むなよ・・・? お前が嫌がっても最期まで道連れにしてやる。・・・覚悟しとけ」

 苦そうに・・・切なげに。笑った気配。
 おずおずと背中に両腕を回し、やんわりと貴方を抱く。

「約束です。・・・わたし一人を置いて逝かないって」

「・・・ああ。逝く時は一緒だ」

「絶対に離さないでください・・・・・・」

「出来ねぇから困ってる」


 顔を上げた渉さんが、わたしの頭の後ろを掴まえて斜めに引き寄せる。
 最初から噛みつくように少し乱暴な深い深いキスが繋がって。
 角度が変わるその一瞬だけ、息継ぎを赦される。



 貴方の腕の中でだけ。わたしは生きるのを赦される。




 貴方の腕の中にだけ。わたしの生きる世界は・・・在る。



 
 生まれた時から存在すら望まれていなかったわたしの。
 生きる意味が。ここにだけ。



 もしも。
 明日、灰になって跡形も無く消え去る運命だとしても。何ひとつ惜しむものが無いと思えるほどに。この刹那を愛するわたしは。




 とても自分らしいと。そう思うんです・・・・・・、渉さん。




 完