渉さんがちょっとヤンチャだった少年時代に。所轄署でいわゆる少年課に配属された峰さんが、何度も補導したのが縁だとか。

「あのお転婆娘とこいつには、散々手を焼かされたよ」

 もちろん。あのお転婆娘とは由里子さんのこと。

「中根は代々ヤクザでしょうがねぇんだろうが。相澤が極道(そっち)に行くとは思ってなかったからなぁ・・・。足洗えって何度も説教してやったもんだ」

「・・・俺にそんな説教(こと)したのは、峰さんだけでしたよ」

「たりめぇだ。ガキが粋がって死に急ぐのなんざ・・・黙って見逃せるかよ」

 二人は懐かしそうに口許を緩ませあっていた。

「まあ訳あって俺ぁ警察を辞めたが・・・。伝手を辿って、色々と耳に入って来るんでな。・・・ま、今は流しの情報屋みてぇなもんだ」 

 まるで刑事ドラマみたいな、今夜は饒舌な峰さんの告白をわたしは感心して聞き入っていて。

 きっと立場が真逆だったからこそ。二人の間に忌憚のない信頼関係が、成り立っていたのじゃないだろうか。
 渉さんが峰さんを父親のように慕っているのが感じ取れて、微笑ましいというより嬉しかった。極道を離れても味方がいることは心強さの源になる。わたしはそう思った。

「・・・そう言やぁ」

 峰さんは注ぎ足したグラスに口を付けかけて、渉さんに僅かに目を眇めた。

「坊主はシンガポールだそうだな」

「・・・・・・そう聴いてます」

 誰のことを云ったか。峰さんには静羽さんのことも、高津さんとのことさえ通じているのだと得心する。
 
「戻ってくりゃまた難儀だなぁ、お前には・・・」

 呟くように峰さんが云ったのを、渉さんは一瞬遠い目をして。

「・・・気張りますよ」

 微かに笑っただけだった。