「・・・・・・何かあったの?、結城」

 不意に藤君から話しかけられて、少し間抜けたような顔を見せてしまったかも知れない。
 薄暗い車中、対向車のヘッドライトが運転席の彼を照らしては遠ざかっていく。

「えぇと、ううん。・・・大丈夫、何でもない」

 昼間、由里子さんから聴いた結婚の話は知らないことにすべきか。
 悩んでいたのはそれだ。渉さんの観察眼は鋭すぎて、何かを隠していると思われてもややこしい。・・・何かというより、牧野君限定だけれど。

 ハンドルを片手だけで握った藤君は、胡散臭そうに横目を流すと「ふーん」と気の無い返事を返した。

「どうせ中根由里子がまた、余計なことバラシたんだろ」

「・・・・・・・・・」

 渉さんと同じくらい藤君も鋭い。内心で溜め息を吐いて。恐る恐る。

「・・・聴かなかったことにしておく方がいい?」

「知るかよ」
 
 結婚という単語も抜いているのに成立している会話。対応は相変わらずの塩味だけれど・・・ありがとう。もうこうなったら成り行きに任せるしかないかしら。
 最近ちょっとだけ開き直り・・・じゃなく大らかな考え方も出来るようになって。

 ウィンドゥ越しに流れる光りの帯を眺める。
 結婚してもあのマンションでいいのかしら。お店もあるし、ああでも藤君にずっと送り迎えしてもらう訳にも・・・。そこでハタと思い当たる。ちょっと待って。結婚したら一応新婚になるんだし、まさか遠慮して藤君が出て行くとかになったりは?!
 
「ねぇ藤君っ、わたし達が結婚しても一緒に居てくれるわよね・・・?!」