火恋 ~ひれん~

 それにねぇ、と由里子さんは眸を和らげ、にこりとした。

「相澤君は初めからそのつもりだったと思うな」

「初めから・・・?」

「そのくらいの覚悟が無きゃ、ましてや堅気の織江ちゃんに手を出す訳ないもん。気安めの女ならいくらでも居たし、本気の女には真面目で一途だから相澤君」

 彼女の言葉に、胸に刻んである記憶を一つ一つ丁寧になぞってみる。

 想いを繋げた大晦日の夜のこと、・・・渉さんとひとつになれた朝には、マンションに来いと云われたこと。初めての旅行でわたしに別れを告げようとしたこと。高津さんのこと。そして。静羽さんの前で交わした・・・あれが生涯の契りなのだと思っていた。

 わたしの望むことは何も出来ないと。その代わりに心は全部わたしにくれると渉さんは云った。あれは貴方にとって最初から誓いの言葉だった・・・? 
 胸の奥がきゅっと締め付けられる。

 貴方に出逢ったあの夜。ほんの小さな火花がわたしの胸に弾けていました。
 忘れろと云いながら貴方は。わたしに火種を残して絶やさせてくれなかった。
 あのとき貴方の胸にも。焦れるような焔が燻っていたのでしょうか・・・・・・。 


「ああ見えて人見知りだし、あたしとしてはどうやって織江ちゃんを口説いたのか、大いに興味あるのよねぇ」

「え?!」

「だってほら、お店の女の子は黙ってても寄ってくるでしょ。連絡先交換とかも絶対しないタイプだし、あの相澤君が自分からアプローチとか、ダルマが逆立ちするぐらい超常現象よねぇと思って」

 クスクスと笑われる。
 初対面でいきなりキスされました、なんてここで教えたら、渉さんの積み上げてきたものが崩れちゃいそう。そっと鍵をかけて胸の奥に仕舞いこむ。

「そのぐらい織江ちゃんが特別ってコトなんだし、遠慮なくお嫁さんになっちゃいなさいな。相澤君へのお返しならそれが一番よ」
 
 最後はさっぱりとそう云って、やっぱり由里子さんは破顔一笑した。