「そう言えばこの間、二人で静羽のところに行ったんでしょ? 相澤君から聴いたわよ、織江ちゃん」

 生憎の梅雨入りで、お店はちょっと閑古鳥が鳴き続ける毎日。由里子さんと、バックヤードでイベントを考えながらの打ち合わせ中だった。
 不意に思い出したように言って由里子さんはニンマリと笑う。

「静羽に結婚を報告して来たって! 織江ちゃんたらもう、恥ずかしがらないで教えてくれたら良かったのにぃ」

 ・・・結婚?!!!
 衝撃のあまり手にしたマグカップを床に落とす。中身は入っていない陶器のそれが、ゴトンと鈍い音を響かせた。

「け、けっこん、するん、です、・・・かっ?!」

 何故か当事者が一番慌てふためく状況に陥っている。

「うん? どこか貸し切って、取りあえず身内だけはお披露目するから、セルドォルも全員来いって。すごい上機嫌だったわよぉ」
 
 聴いてません。わたしは、ひとっ言も聴いてません、由里子さん・・・・・・。

「やだ、聴いてない?」

 固まってフリーズしているわたしに、キョトンとする彼女。

「だってあたし、織江ちゃんに似合うドレス探せって頼まれてるのよ?」

「・・・・・・・・・・・・」

 地球の裏側まで届きそうな、深くて悲壮な溜め息を胸の中に漏らす。



 渉さんて。案外お構いなしで、さくさく勝手に進めちゃうタイプ。・・・うん。何となく解ってたわよね?、織江。