渉さんの指先がわたしの頬をなぞる。そのまま掌で包み込むようにして顔を寄せ、優しく接吻(くちづけ)られた。

 静羽さんの前で交わしたそれは。
 まるで。
 愛を誓う儀式のようで。

 これ以上ないくらい十二分だと思った。渉さんにとって妻は死ぬまで静羽さん一人。それでもいい。・・・それでいい。

 生きて渉さんの傍に居られる幸せを思えば。
 貴方の声も。熱も。匂いも。仕草も。
 わたしはこの手に感じて触れられる。
 ただもうそれだけで。
 
 わたしだけのものには、ならないのだとしても。

「・・・・・・愛しています、渉さん」

 心から。晴れやかに澄んだ気持ちで。貴方を見つめる。
 
「静羽さんに誓って・・・、渉さんを幸せにします」

 渉さんは一瞬。大きく眼差しを揺らし切なそうに眸を眇めた。それから上を向いて、遠く仰ぐように空を見遥かす。

「・・・・・・ああ。俺もだ」

 愛おしむような、儚げで優しい横顔。

「俺も織江を愛している」