「・・・覚悟があるなら、相澤君と同じ世界で生きてみなさいってあたしは晶に言ったの。でないと相澤君には敵わないわよって」

 哀し気な眸で由里子さんは苦そうに笑みを滲ませた。

「あの子を抜き身のままで野放しにしとくよりも、組織が鞘(さや)になればいいと思ったの。相澤君が三の組なら、簡単に手も出せないでしょ」

 “うちの組”
 聴き洩らさなかったわたしの視線を、由里子さんはやんわりと受け止め返した。

「ごめんね織江ちゃん、内緒にしてて。あたしね一ツ橋二の組、組長の娘なの」

 思いもがけない告白。けれど驚きはあまり無かった。

「娘って言っても組を継ぐのは兄だし、あたしはそっちに縛られてる訳じゃないのよ。セルドォルもあたし個人のお店で、好きにさせてもらってるし」

「そう、だったんですね・・・」

 組長の娘、と聞いて腑に落ちてしまった。たとえば、渉さんの立場に詳しかったこと。高津さんとの関わり。

 由里子さんは、わたしから目を逸らすこと無く言葉を続けた。

「織江ちゃんが、相澤君とこうなった以上はちゃんと話すつもりだった。晶のことで織江ちゃんに迷惑かけちゃったし、それでやっとね相澤君にも赦してもらえて会いに来たの」

「・・・由里子さんがこうして来てくれただけで嬉しいです」 

 わたしは微笑み返した。

 随分と永い間。足許が覚束ない場所に立っている気がしていた。渉さんにセルドォルを辞めろと云われたあの夜から。ピースが埋まらないパズルを前に、心許なくて仕方がなかった。

 やっと。残り最後のピースを手に出来た。

 隣りを小さく仰ぐ。
 こちらに向いて目を細める彼。わたしの髪を撫でながら額にキスを落とす。思いを凡て見通しているみたいに。

 晶のこと、あらためてごめんなさい。と由里子さんはわたし達に頭を下げた。