「・・・聞きしに勝る溺愛っぷりねぇ、相澤君」

 リビングのソファに腰かけた由里子さんは、向かいに座るわたしと渉さんを交互に眺めてから、わざとらしく大袈裟な溜め息を吐く。

「まあ織江ちゃんが壊されてなくて良かったわぁ。昔の相澤君だったら、加減て言葉知らなかったもん」

「・・・いつの話だ」

「オトナになったのねぇって話」

 クスクスと笑って由里子さんは、テーブルに置かれたコーヒーカップを手にした。

「静羽も安心してると思うよ。織江ちゃんみたいな好い子が傍にいてくれて、相澤君も笑えるようになったこと」

 口を付けたカップを戻し、彼女は渉さんに向かって真っすぐ微笑む。
 渉さんはそれには何も応えずに。黙ってわたしの肩を自分に引き寄せた。

「・・・静羽は相澤君を愛してたんだから。幸せでいて欲しいって思うに決まってる」 

 言葉を切った由里子さんの気配が少し変わった。
 カップに落とした眼差しをスッと細め、それから真顔でわたしを見上げた。

「晶は子供だったから・・・未だに相澤君を赦せない。相澤君だって帰れるものなら帰りたかったのよ。でもしょうが無かったの、取引きはシンガポールだったから。静羽ももちろん知ってた。・・・でも、晶には言い訳にしかならないからその事は云うなって、相澤君がね」

 貴方は・・・そういうひと。

 顔を上げ、そっと横顔を見つめる。瞑目したままの渉さんは沈黙を続けて。

「晶は・・・相澤君と対等になろうとしたんだと思う。危ない場所に出入りするようにもなって放っておけないし、それであたしが誘ったの。うちの組に来なさいって」

 静かに、きっぱりと言い切った由里子さんの告白でもう一つ。秘密が明かされた。