「藤君は、思ってた以上に何でも出来ちゃう人なのね」

 わたしはさらりと、けれど敬意を込めて真面目に言ったつもりだった。

「・・・それがオレの仕事だっつの」

 素っ気なく。横を向いて白く長い息を逃す彼。
 まだまだ鷹の爪を隠していそうだけれど。・・・わたしにとっては頼りになるお兄さんで。・・・お姉さん。藤君が何者でも変わらない。

「訊いていい?」

 目線だけが返る。

「あの後、高津さんはどうしたの・・・?」

「また出直すってさ。・・・つか次はねーだろ」

 意味を捉えかねて、藤君の横顔をじっと見据えると。持って来た灰皿で煙草を揉み消し、気怠げに前髪を掻き上げた。

「高津は代理を甘くみすぎなんだよ。義理の弟だろうが、結城に手ェ出したんだから終わりに決まってる。・・・一応云っとくけど、あんたが思ってるより普通に怖いよ、あのひと」

 そこまで言って、藤君は部屋に戻って行った。



 6月も間近くなり、吹き抜ける風が熱と湿り気を帯びて纏わりつく。
 ・・・絡みついて、吹っ切れないわたしの気持ちと。心地悪さがどこか、似ていた。