ほぼ夜通し・・・という位、わたしを離さなかった渉さんは。少し寝不足気味な様子だったけれど、お昼過ぎに坂下さんが迎えに来た時には、いつも通りにダークめなスーツに身を包み、毅然とした表情で玄関先に立った。

「いってらっしゃい。・・・気を付けて」

「ああ、いい子で待ってろ。夜は少し遅くなる」

「はい」

「俺の居ない間に、藤に懐きすぎるなよ?」

 少しだけ意地悪そうに眼を眇め、渉さんはわたしにキスを落とした。
 牧野君の時と言い、全然見えないのに、ものすごくヤキモチ妬きなんですね実は。

「気を付けます」

 クスリと返して。
 
 



 渉さんが出掛けた途端に気も緩んだのか、陽気も手伝って、リビングのソファでつい転寝をしてしまった。ふと目が醒めたら、ジップアップのパーカーが広げて胸の辺りに掛けられていて。自分の部屋に戻れば良かったのに、藤君に余計な気を遣わせてしまったみたい。

 壁時計を見やると、2時25分。1時間くらい眠った?
 キッチンに藤君の姿は無く、パーカーをたたみ彼の部屋をノックした。応答なし。書き置きも無かったから外には出掛けていない筈。とすると、思い当たるのはルーフバルコニー。

「藤君」

 リビングの掃き出し窓を開ける。
 高さのある手すり壁に寄りかかり、煙草を咥えた藤君が、手にしたスマートフォンから顔を上げた。

「・・・なに?」

 相変わらず面倒臭そうな表情をされるけれど、今は全く気にならない。外用のサンダルを履き、少し離れて彼の横に並ぶ。

「パーカー有りがとう」

 あぁ、と気の無い返事が返る。

「昨日、わたしを眠らせたのも藤君でしょう?」

 わざとついでのように訊いてみた。