顔を上に向けて目を合わせる。何だか。100年分の告白をされたぐらいに胸がいっぱいで。どう言葉で返していいのかすら。
 愛されると人は切なすぎても泣けるのだと、生まれて初めて知った。貴方に出逢うまで。孤独に打ちひしがれて流す涙しか知らなかった。

「・・・相変わらず泣き虫だな、織江は」

 いつの間にかそれも渉さんの口癖になって。

「ごめんなさい」

 泣き笑いになったわたしの目元を貴方の指が拭う。 

「一生治らないと思うんですけど。・・・それでも」

 こんなわたしで良いですか。

「・・・ああ。どんなお前でも俺はいい」

 目を細めて。ついと顎に手を掛けられた。

「お前こそ死ぬまで逃がさんぞ。覚悟は出来てるだろうな?」

 深い眼差しがわたしを射抜く。

「・・・あの時もし織江が晶を選べば、地の涯てだろうと追ってお前達を殺すつもりだった。店を辞めさせて晶から引き離したのも、・・・お前が晶を信じて俺を見限るかも知れないと思ったからだ。お前から何を奪っても、自分のエゴを優先させる。・・・俺はそういう極道者だ」

 しかし極道者(それ)も違わぬ自分なのだと。渉さんは、わたしに初めて突き付けた。

 甘い夢ばかりを描いていたつもりは無いけれど。相澤渉というひとを見誤ってもいけない。少し引き締まる思いで。真っ直ぐに見つめ返し淡く微笑みかける。

「わたしは渉さんのものですから・・・。どうされても、構いません」

 一瞬。彼の眼差しが揺れた。

「どんな渉さんだとしても・・・です」



 織江には敵わねぇな、と苦そうな、困ったような呟きが漏れて。
 随分と優しく唇を啄ばまれた後は。
 頭の天辺から爪先までをくまなく愛されて。
 渉さんに甘く激しく征服され続けた。