「・・・・・・お前は分かってない」

 腕に力を込められたまま。頭の上で深く息を吐くような声がした。

「俺はどんな小さな傷ひとつもお前に付けたくない。てめぇの命より大事な女に、誰が好き好んで余計なものを背負わせる。・・・・・・織江はただ笑っていろ。お前がそうしてくれるだけで俺は」

 苦しいことなんざ一つもねぇよ、と。切なげに微笑まれた気配がした。

「お前を役不足だと思ったこともない。お前はお前のままで十分俺は掬われてる。・・・静羽の事もだ」

 静羽さんの名を口にした時。渉さんの抱き込む力強さが増した。

「俺があいつを独りで逝かせた事に変わりはない。俺の咎は俺が背負う。だが、次に晶がお前に掠り傷ひとつ付けてみろ。・・・俺は赦さん」

 静かに、けれど毅然と。
 貴方の言葉ひとつひとつがわたしの中に響いては、熔けて沈んでゆく。

 渉さんは。お前が惚れてる男は、そう軟(やわ)には出来てねぇよ。と。腕を緩めるとそう云って頭の天辺に優しいキスを落とした。