目が醒めた時。薄暗闇の中、眸に映った渉さんの寝顔が。何故かとても不思議に思えた。
ダウンライトの仄かな灯りに包まれた、いつもの寝室。柔らかな羽根布団の肌触りも、シーツの匂いもいつもと同じ。二人とも何も身に着けていない素肌のままで、わたしは渉さんの腕枕の中に居て。いつもと変わらない事なのに、いつベッドに入ったのかを憶えていない。
躰を合わせた名残りも余韻も感じない。それがとても不自然に思えて。ぼんやり考える。
・・・渉さんは・・・今日は何時に帰って来たんだったかしら・・・。珍しくフレンチを二人で食べて・・・・・・。ちぐはぐな記憶が少しずつ巻き戻り。不意に焦点が合う。
違う・・・。さっきまでタワービルに居て高津さんが・・・!
咄嗟に跳ね起きてしまった振動とスプリングの鈍い軋みに、渉さんが身動ぎ目を開けた。
「・・・大丈夫か」
腕が伸びて来て戸惑っているわたしを引き寄せ、やんわり胸元に抱き込む。良く知っている肌の感触と匂いにひどく安心したけれど、ハッとして顔を上げた。
「渉さん、・・・あの・・・っ」
高津さんは、と言いかけて。彼の深い眼差しとぶつかる。
泣いてしまって抱き寄せられたところまで、きちんと憶えがある。藤君がいつの間にか、あの場所に居たことも。高津さんはどうしたんだろう。わたしの所為で二人の間をもっと酷くしてしまったんじゃ・・・っ。
そう思った途端、激しい後悔の涙が込み上げた。
「・・・ごめ、・・・なさい・・・」
声が震える。申し訳なさで渉さんの顔が見ていられない。両手で顔を覆い、小さく躰をすくませた。
「わたし・・・勝手なこと・・・言ってしまって・・・」
あの時は。静羽さんなら、そう思ったのじゃないかって。高津さんにも渉さんにも、彼女は幸せだったって思って欲しいって。わたしの身勝手な望みを口にしてしまった。
「・・・・・・わたしが云うべきことじゃ・・・なかった・・・のに」
「・・・織江が謝ることは何もない」
嗚咽を堪えるわたしから手を外させると。渉さんは大きな掌で涙に濡れた両頬を拭い、上を向かせる。
愛しむような・・・貴方の静かな眸。咎められてはいないのだと、それだけでまた切なくなって。涙を潤ませた目元に、渉さんは黙って幾度も接吻(くちづけ)を落としてくれたのだった。
ダウンライトの仄かな灯りに包まれた、いつもの寝室。柔らかな羽根布団の肌触りも、シーツの匂いもいつもと同じ。二人とも何も身に着けていない素肌のままで、わたしは渉さんの腕枕の中に居て。いつもと変わらない事なのに、いつベッドに入ったのかを憶えていない。
躰を合わせた名残りも余韻も感じない。それがとても不自然に思えて。ぼんやり考える。
・・・渉さんは・・・今日は何時に帰って来たんだったかしら・・・。珍しくフレンチを二人で食べて・・・・・・。ちぐはぐな記憶が少しずつ巻き戻り。不意に焦点が合う。
違う・・・。さっきまでタワービルに居て高津さんが・・・!
咄嗟に跳ね起きてしまった振動とスプリングの鈍い軋みに、渉さんが身動ぎ目を開けた。
「・・・大丈夫か」
腕が伸びて来て戸惑っているわたしを引き寄せ、やんわり胸元に抱き込む。良く知っている肌の感触と匂いにひどく安心したけれど、ハッとして顔を上げた。
「渉さん、・・・あの・・・っ」
高津さんは、と言いかけて。彼の深い眼差しとぶつかる。
泣いてしまって抱き寄せられたところまで、きちんと憶えがある。藤君がいつの間にか、あの場所に居たことも。高津さんはどうしたんだろう。わたしの所為で二人の間をもっと酷くしてしまったんじゃ・・・っ。
そう思った途端、激しい後悔の涙が込み上げた。
「・・・ごめ、・・・なさい・・・」
声が震える。申し訳なさで渉さんの顔が見ていられない。両手で顔を覆い、小さく躰をすくませた。
「わたし・・・勝手なこと・・・言ってしまって・・・」
あの時は。静羽さんなら、そう思ったのじゃないかって。高津さんにも渉さんにも、彼女は幸せだったって思って欲しいって。わたしの身勝手な望みを口にしてしまった。
「・・・・・・わたしが云うべきことじゃ・・・なかった・・・のに」
「・・・織江が謝ることは何もない」
嗚咽を堪えるわたしから手を外させると。渉さんは大きな掌で涙に濡れた両頬を拭い、上を向かせる。
愛しむような・・・貴方の静かな眸。咎められてはいないのだと、それだけでまた切なくなって。涙を潤ませた目元に、渉さんは黙って幾度も接吻(くちづけ)を落としてくれたのだった。



