わたしはホームセンターで高津さんに言われた時から、『姉さんをたった独りで死なせた』のは少なくても事実だったのじゃないかと、ぼんやり受け止めていた。
 そんな判りやすい嘘を吐くほど愚かな人には思えなかったし、静羽さんを愛していたのだと、言葉の端端から伝わって来たから。
 大事なお姉さんが事故に遭い、彼女が誰よりも傍に居て欲しかった筈の夫は間に合わなかった。静羽さんが最期に幸せに逝くことが出来なかったと、弟として赦せずにいるのじゃないだろうか。

 渉さんもそれを解っているから黙っている。
 パズルのピースが少しずつ、嵌まっていく手触り。

「結城さん。そいつはね、姉さんが事故に遭った日、自分の幹部昇進がかかった取引きを抱えてた。警察も病院も、何度も携帯に連絡したのに相澤は出なかった。やっと『危篤だ』と伝えた時にも、この男は『行けない』って言ったそうだよ。霊安室で包帯だらけの姉さんにも、涙ひとつ見せなかったってね。・・・俺は大学生でカナダに留学してる最中だったから、戻って病院関係者に訊いて回ったんだ。由里子も知ってる事実さ」

 高津さんはただ淡々と。わたしに向かって続ける。

「・・・分かったろ? 俺は姉さんに誓って、結城さんをその悪魔から解放してやりたいだけだ。すがる相手が欲しいなら俺にすがればいい。俺には姉さんだけだったから、家族も無い同士、慰め合って生きてくのも悪くない」

 そう言って手をゆっくりと差し出す。

「君を大事にして愛せる自信はある。・・・だからおいで、結城さん」



 一瞬。
 ほんの一瞬。自分の足許がたわんで、崩れ落ちる錯覚に眩んだ。
 彼の眸の奥に初めて。孤独と悲しみの色が揺れて見えたから。