その瞬間。渉さんから放たれた背筋が凍りそうなほどの冷気。気配が一変した。おもむろに向き直り、わたしを背に庇うように一歩前に立ちはだかる。

「・・・・・・何の用だ、晶」

 こんなにも一切の感情を打ち消した、貴方の無機質な声。初めて聴いた。
 高津さんがここに現れたのを、渉さんは動じる様子も無く。ホームセンターの時も、尾行されたと藤君は言っていた。もしかしたら今のこの状況は、予測の範疇だったのかも知ない。

「お前の本性を知らない、可哀そうな結城さんを助けに・・・だよ」

 高津さんは少し離れて、わたし達と相対していた。
 グレーのシャツに黒のスーツ。変わらない端麗な容姿で、片手をスラックスのポケットに佇む姿は、本当にファッション雑誌から抜け出たモデルのよう。ただ漂わせる空気の色だけが。わたしには殺伐として見えた。冷え切った眼と声にやはり、感情は一欠けらも感じられない。

「姉さんを見殺しにしたお前に邪魔する権利は無い。相澤渉」
 
「・・・・・・・・・」

「姉さんも、きっとそう言うだろうな」

 今。見えない刃で。彼が渉さんの心臓を目がけ一突き。・・・した。

 高津さんは。
 このひとは、渉さんが苦しむような言葉をわざと選んで、一番深い傷を付けたがっている。・・・憎しみや恨みの殺意では無く。赦さずに、傷を与え続けることが彼の望み・・・?

 わたしはハッとして横を見上げる。
 渉さんは、真っ直ぐに高津さんを見据えていた。他の何も寄せ付けない孤高のオーラを放ち、毅然と。
 それは。高津さんの言葉を否定して、跳ねつけているのでも無く。彼の捻じれた思いを凡て承知してなお、信念のようなものを貫いているように思えた。