食事の後には、最上階に展望フロアがあるからと、光りの粒子を散りばめて描いたみたいな夜景を渉さんと二人で見ているのさえ、どこか夢見心地に。
わざわざ人気のデートスポットみたいな場所に連れて来てくれたのも、高津さんの事で・・・彼なりの埋め合わせなのだろうと。渉さんの気遣いがとても切なく胸に染みる。
わたしの心が不安定に揺れてしまった事も、気付かれてしまったから。
“愛想をつかす時は、お前が先だろう”
・・・云わせなくてもいい言葉まで、云わせてしまった。
自分の幼さと拙さを思い知る。渉さんにばかり荷を負わせてしまわないよう、今のわたしに出来る精一杯って。ガラス越しに、眼下に広がった光の点描画を遠くまで見晴るかす。
覚悟が足りていないと藤君にも叱られた。『こんな事ぐらいで』。云われたとおり。
わたしは本当の意味で、櫻秀会・一ツ橋三の組、若頭代理・相澤渉というこのひとを、何も知らない。わたしが知っているのは・・・厳しくても優しくて、わたしを大事に想ってくれるただの渉さん。
それでもこの先、彼が望むと望まないとに拘らず、極道という世界とわたしはきっと無関係ではいられない。どんな未来が待つのだとしても。こんな事ぐらいでと、折れずにいられる強い心が欲しい。
何があっても貴方を愛し続ける、わたしで在りたい。貴方にそう信じ続けてもらえる自分で在りたい。
「・・・・・・渉さん」
仰ぐように隣りを見上げる。
同じようにガラスの向こう側をじっと見据えていた彼の横顔が、ゆっくりわたしへと向く。深くて静かな眼差し。いつも。わたしを揺るぎなく包み込んで。
「わたし、もっとちゃんと大人にならないと駄目ですね。渉さんに迷惑をかけないぐらいに」
小さく微笑んで見せると、渉さんは目を細めて、わたしの頭を柔らかに撫でる。
「・・・俺は織江を迷惑だと思ったことは一度もない」
「でも」
一瞬目を伏せて。
「わたし、いつも渉さんにして貰うばかりで・・・。何もしてあげられてないと思うので・・・」
「俺が好きでしている事だ。迷惑でも何でもないと云った筈だが」
頭の上で溜息雑じりの声がした。それから続けて。
「・・・傍に居てくれればそれで充分だ。お前さえ居れば俺は」
低く・・・優しく。
顔を上げると目が合った。貴方がひどく愛おし気にわたしを見つめるから、胸がいっぱいになって。
「相変わらず泣き虫だな・・・」
目元を指で拭われながら。渉さんが何かを云った言葉と、後ろから聴こえた声が重なった。聞き憶えのある、どこか冷めた声音。
「まだそんな男と一緒にいるんだね、結城さん」
振り返らなくても分かった。
高津晶、そのひとだという事は。
わざわざ人気のデートスポットみたいな場所に連れて来てくれたのも、高津さんの事で・・・彼なりの埋め合わせなのだろうと。渉さんの気遣いがとても切なく胸に染みる。
わたしの心が不安定に揺れてしまった事も、気付かれてしまったから。
“愛想をつかす時は、お前が先だろう”
・・・云わせなくてもいい言葉まで、云わせてしまった。
自分の幼さと拙さを思い知る。渉さんにばかり荷を負わせてしまわないよう、今のわたしに出来る精一杯って。ガラス越しに、眼下に広がった光の点描画を遠くまで見晴るかす。
覚悟が足りていないと藤君にも叱られた。『こんな事ぐらいで』。云われたとおり。
わたしは本当の意味で、櫻秀会・一ツ橋三の組、若頭代理・相澤渉というこのひとを、何も知らない。わたしが知っているのは・・・厳しくても優しくて、わたしを大事に想ってくれるただの渉さん。
それでもこの先、彼が望むと望まないとに拘らず、極道という世界とわたしはきっと無関係ではいられない。どんな未来が待つのだとしても。こんな事ぐらいでと、折れずにいられる強い心が欲しい。
何があっても貴方を愛し続ける、わたしで在りたい。貴方にそう信じ続けてもらえる自分で在りたい。
「・・・・・・渉さん」
仰ぐように隣りを見上げる。
同じようにガラスの向こう側をじっと見据えていた彼の横顔が、ゆっくりわたしへと向く。深くて静かな眼差し。いつも。わたしを揺るぎなく包み込んで。
「わたし、もっとちゃんと大人にならないと駄目ですね。渉さんに迷惑をかけないぐらいに」
小さく微笑んで見せると、渉さんは目を細めて、わたしの頭を柔らかに撫でる。
「・・・俺は織江を迷惑だと思ったことは一度もない」
「でも」
一瞬目を伏せて。
「わたし、いつも渉さんにして貰うばかりで・・・。何もしてあげられてないと思うので・・・」
「俺が好きでしている事だ。迷惑でも何でもないと云った筈だが」
頭の上で溜息雑じりの声がした。それから続けて。
「・・・傍に居てくれればそれで充分だ。お前さえ居れば俺は」
低く・・・優しく。
顔を上げると目が合った。貴方がひどく愛おし気にわたしを見つめるから、胸がいっぱいになって。
「相変わらず泣き虫だな・・・」
目元を指で拭われながら。渉さんが何かを云った言葉と、後ろから聴こえた声が重なった。聞き憶えのある、どこか冷めた声音。
「まだそんな男と一緒にいるんだね、結城さん」
振り返らなくても分かった。
高津晶、そのひとだという事は。