コースで予約を入れてあったらしく、芸術的な彩りの前菜から始まり。渉さんはメインにお肉、わたしは魚で、生まれて初めての本格フレンチをゆっくりと堪能する。
 フォークとナイフは並べてある外側から使うぐらいのマナーしか知らなくても、どうにか乗り切れるものなのだと心底ホッとしながら。

 渉さんは本当に卒なくカトラリーを使いこなしていて、ナプキンで口許を拭う仕草だとか、何て言ったらいいか、極道のひとにしては上品・・・てちょっと失礼かも知れないけれど。
 答えてくれるとは期待せずに、最後のコーヒーを前にわたしは思い切って訊ねてみる。

「・・・前から思っていたんですけど。渉さんはもしかして・・・厳しいお家で育ったりしましたか・・・?」

「・・・どうだろうな」

 目線で『何故そんなことを訊く』と見返され、「立ち入るつもりは無いんです」と遠慮がちに前置きをした。

「渉さん・・・言葉使いとか、身についている所作がきちんとしているので、そうなのかなって。すみません・・・忘れて下さい」

 弱く笑みを返した。
 すると彼はカップを手にしながら表情を変えずに、さらりと言い流す。

「疾うに絶縁されてる身だからな。織江に聴かせるような話も無いが」

 否定はしなかった。

「お前に釣り合う男に見えてるなら、悪くもない気分だ」

 そう言って淡く笑む。
 思わず。わたしは目を丸くして彼を凝視してしまった。訊き間違いかと耳まで疑う。釣り合うって。誰が誰に・・・?!

「・・・何だその顔は」

 少し眉を寄せて渉さんは怪訝そう。

「い、・・・いえ。あのだって釣り合ってないのはわたしで、渉さんが変なことを言うので、ちょっとびっくりして・・・」

「買い被りすぎだ俺を。・・・愛想つかす時はお前が先だろうが」

「一生、有り得ません・・・っっ」

 これ以上無いってぐらいに真剣に、間髪入れず全力否定したわたし。
 渉さんは目を見張ってから、和らげた眼差しで口の端を緩め。困ったように笑みを浮かべたのだった。