残さずに飲みきるとわたしはバルコニーに出て、すっかり夜に包まれた街を見下ろしながらぼんやりと風に当たる。
 心地よい涼やかな空気。どこからとなく、子供の声やお母さんの声が聴こえて来る。泣き声だったり、はしゃぐ声だったり。外の世界を感じるのが何だかとても久しぶりに思える。

 何だかずっと・・・閉じた世界を見ていた気がする。綺麗な月も出ていた。下弦の月。所所に小さな星の瞬き。

 わたしはただ。見ているだけ。

 上を見上げて。ただそれだけ。

 ああそれでも。

 下を向いてうずくまっているよりはいい。


「・・・なんか本当に全然ダメね・・・わたし」  

 大きく息を吐く。
 こんな事ぐらいで。藤君が言った言葉。
 
「覚悟も何も・・・足りてない」 

「・・・そーだな。取りあえずメシ食って肉付けろ。あんたに足りてないのは、そっからだよ」
 
 不意に部屋の中から声がして。網戸越しに藤君が立っていた。腰に手をやり気怠そうに。

「中に入んな。もうメシ出来るから」

「うん。ねぇ・・・藤君」

「・・・なに」

「藤君は、わたしが渉さんの傍に居るの・・・認めてくれてるの?」

 さっき云われた事も裏を返せば、励ましでもある。この頃はかなり打ち解けてきた自負はあるけれど、それとは別問題だろうとずっと思っていた。