「・・・お願いがあるんです」

 わたしがまずはそう切り出したのを、渉さんは眉を顰めて眼差しを険しくした。

「今日のことを渉さんに全部お話したうえで、・・・高津さんにもう一度会わせてもらえませんか」

「その必要がどこにある」

 空気がぐっと張り詰めた。それでも目を逸らさずにわたしは続ける。

「・・・静羽さんの弟だったら尚更です。ちゃんと・・・話をしてみたいんです」

「・・・・・・お前に晶の何が分かる?」

 その瞬間の冷気の凄まじさに、自分が渉さんの禁域に踏み込んだのを気付いた時には遅かった。

「思い上がるなよ。誰が勝手に、俺と晶の間に割り込んでいいと言った? 俺の女(もの)ならそれらしく分を弁えろ。二度と余計な事を考えるな。・・・それとも俺の躾がよほど足りて無かったか」

 まるで慈悲の無い低い声で言い、冷ややかに目を細める。

「・・・来い」

 わたしは一瞬、怯えたかも知れない。
 手首を掴まれ、有無を云わせずに寝室へ。ベッドの上に放り投げられるように躰を倒された。

「渉さ・・・っ」

 両手首を頭の上で解いたバスローブの腰ひもで縛られ、自由も利かない。
 裸になった彼は、服のまま組み敷いたわたしの顎を掴み、顔を自分に向けさせた。見下ろす射すような眼差し。・・・怒りとは違う。けれど今まで感じた事のないほどの威圧感。怖いと本気で思った。

「・・・お前をどれだけ泣かせようが、俺は離さんぞ。解るまで躰に叩き込んでやる。・・・覚悟しておけ」




 
 
 藤君が部屋に居たのかどうか、分からない。居て欲しくなかった。・・・あんな哀願と悲鳴を上げ続けて。

 それから三日間も。食事と必要以外はベッドの上から下りることすら、赦してもらえなかった。
 渉さんの苛烈な気配は最初の夜だけで。あとは・・・自分の手が届く場所にわたしを繋いでおきたがっただけにも思えた。

『・・・織江』

 何度も。・・・数えきれないぐらい名前を呼ばれて。
 哀しいのか幸せなのか、よく分からなくなった。

 わたしは・・・。
 貴方にだた抱かれていればいいだけの・・・人形ですか。
 意思を持っては・・・いけませんか。
 ここに居さえすれば・・・貴方は喜んでくれるのでしょうか。

 そこに“愛”は・・・あるんでしょうか・・・?


 相澤の犠牲になるのを見たくない。
 高津さんの言葉が今になって。
 ぼんやりと浮かんでは消えて。・・・また浮かぶ。