渉さんを待っている間、昼間プランターの菜園造りを手伝いながら藤君が少しだけ教えてくれた事を、思い返す。

『言っとくけど、オレは何も喋んないよ』

 わたしが何も云わない内から先にきっぱりと言い渡されて、もちろんそんなつもりは無かった。ただどうしても、気掛かりに思えたのは。

『高津さんは二の組で、渉さんは三の組・・・でしょう? 組同士で仲が悪いとかあるの・・・?』

 大きな組織の抗争や対立のニュースも、最近は少なくない気がする。とても他人事には思えなくて、テレビやスマホの画面を真剣に追ってしまう。もし、と考えるだけで躰の芯が震えるほど怖くなる。

 藤君はあたしを見やると、舌打ちで嫌そうに答えた。

『・・・言っても親族(みうち)なんだよ、一ツ橋は。二と三は分家な。本家(おや)の手前、どっちも外面だけは巧くやってんじゃねーの?』

 こないだのも、と言い掛けた彼は苦虫を噛み潰したような表情で口を噤み、

『今は別に、結城が心配するようなコトはねーよ』

 と、わざとぶっきらぼうに濁してそれきり黙ってしまった。

 思い当たったのは。3月のあの旅行の時のこと。
 渉さんが、離れろと言ったのはやっぱり。わたしに何か危険が及ぶかも知れないと、マンションにも帰らずに自分を遠ざけていたの。貴方は・・・そういうひと。
 他人を顧みない、傲慢で強引なひとに見えても。貴方がわたしを想ってくれているからこそなんだって、ちゃんと分かっているもの。

 大切に想われているのを、愛されているのを、静羽さんも分かっていた筈だから。同じひとを愛した者として。だからこそ、わたしが高津さんに伝えられる事があるのかも知れない。・・・・・・そんな気がしていた。




「織江」

 お風呂から上がった渉さんは、バスローブ姿でリビングのソファに腰掛けるなり、わたしを隣りに呼んだ。
 キッチンに居た藤君と目が合い、けれど自分の気持ちは落ち着いていた。大丈夫。有りがとう藤君。そんな視線を返して隣りに座る。
 渉さんは乾ききっていない髪を無造作に掻き上げると、こちらに目を細め静かに命令する。

「・・・話せ」

 眼差しの奥に宿る厳しさは。いつもの彼のものだった。