「プランターで?」

「そーだよ。取りあえずミニトマトだろ、胡瓜、茄子、大葉。後はまあ唐辛子とか、ラディッシュとかな」

 マンションから車で20分程の郊外に、大型のホームセンターがあって。日用品の買い出しなんかで最近はちょこちょこ、藤君とお邪魔している馴染みの場所。

 別館にある園芸コーナーは屋外にも広がっていて、かなりの売り場面積がある。今はベランダ菜園が流行りらしく、初心者向けの栽培キットも種類が豊富だけれど、藤君は、本格的な家庭菜園を目論んでいるらしい。見繕った苗を、彼は次々とカートに放り込んで行く。
 
「まあ食費の足しにもなるし、世話は結城がしてくれるし。一石二鳥だろ」

 なるほど。世話係はわたしっていう前提なのね。
 
「あ・・・うん。頑張って育てる」

 しっかり頷き返したのに、微妙そうに横目で一瞥をくれる藤君。

「アテにはしてねーけどさ」

 でもきっと、わたしの気晴らしにもなるって考えてくれた筈。彼の優しさはいつもほんの少しだけ、塩味が効いているの。


 それから他に必要なものを揃えてレジを済ませ、お手洗いに寄りたいと伝えると藤君は、荷物を積んでおく、と先に駐車場に向かった。 
 別館のお手洗いの入り口は屋根が付いた屋外にあって、中年の女性が入っていく後ろ姿が見えた。通路の突き当りが左右に、男子用と女子用に別れている。

 藤君をあまり待たせちゃ悪いから、手を拭いたタオルハンカチをミニトートに仕舞いながら少し急ぎ足。通路の中ほどで男性がひとり、手にしたスマートフォンに目を落とし、壁にもたれて立っていた。誰かを待っているのだろうと特に気にもせず、前を通り過ぎた刹那。

「結城さん」

 聞き覚えがあった声に名前を呼ばれ、驚いて足を止め振り返る。

「つれないね。せっかく君を待ってたのに」

「高津さん・・・?」

「久しぶり」

 容姿端麗という言葉がぴたりと当てはまる、モデルでもおかしくない顔立ちと立ち姿。黒のVネックのトップスに生成りのジャケット、白の細身のデニムという、取り立てて目立つ格好でもないのにどこか存在感があって。
 相変わらず目の奥が笑っていない笑みを、涼し気にわたしに向けていた。

「相澤に邪魔されて、ゆっくり話をする暇も無かったろ? ちょっと俺に付き合ってもらえるかな」