セルドォルを辞めて、もうひと月以上。5月の大型連休も過ぎ、公園や街路樹の新緑が色濃さを増してゆく。時間が進んだ分。消せない心残りは染みのように、この胸にこびりついたまま。

 お店のことを心配する資格すら、自分には無いと分かっている。辞めろと云ったのは確かに渉さんだった。けれど受け容れたのはわたし。セルドォルと由里子さんを選ばなかったのは、わたし。自分で付けた傷なのだから、痛んで当然だわ・・・・・・。
 果歩ちゃんや野乃ちゃんの顔が思い浮かぶ度。胸に突き刺さった杭が少しずつ深く埋まる。一生抜けずに、わたしに責めを与え続ける。咎の代価。
 
 五月晴れの蒼天を仰ぐように目を細める。湿り気のない空気だから、今日も洗濯物は良く乾きそう。
 13階のバルコニーからぼんやりと見渡す、外の世界。でも今のわたしにはそちら側に、必要とされる居場所は無い。わたしだけが置き去りにされていく。・・・手が届かない。孤独が苛(さいな)む。

 不意にそんな思いが過ぎって、小さく頭を振った。自分を悲劇の主人公扱いするのは、子供のすることよ。わざと大きく溜め息を逃す。自分で自分を閉じ込めたら、それこそ何も見えなくなってしまうわ。
 
「結城、いつまで洗濯モンと一緒に自分も干してんの? ホームセンター行くから、支度しな?」

 網戸越しに中から、藤君の声が聴こえた。はぁい、と返してからもう一度。空を仰ぐ。今は、自分に出来ることが何かを見逃さないようにしよう。

 わたしの為に。
 渉さんの為に。
 藤君の為に。