渉さんは毎日ではないにしても、それでも週に4日くらいはマンションに帰るようになった。彼なりの贖罪のようにも思う、わたしを鳥籠に住まわせておく事への。
 買い物や出掛ける時はもれなく藤君がついて来るけれど、自由を制限された訳ではないし、文句を言いつつも、公園の散歩まで渋々と付き合ってくれる彼には感謝している。

『運動不足が気になんなら、ジムでも行けば?』

 散歩に付き合わせられるよりはましだと思ったのか、けれど渉さんに即却下されたらしい。理由は。

『・・・・・・筋肉質の女なんか抱きたくねーってさ』

 ・・・基準は全部、抱き心地なんですね、渉さんは。 



 渉さんと居られる時間が長くなったのは、正直にとても嬉しい。詳しくは知らないけれど、不動産関係の会社も任されているらしく、基本的に休日は平日なのだと初めて知った。
 お休みの朝はどうしても、夜が深まるまで眠らせてもらえない分、かなりゆっくりめなスタートになる。
 藤君が用意してくれるモーニングとランチの中間みたいな軽食を取った後、渉さんはソファに寝そべって壁掛けのテレビを観ていたり、時々気が向くと切らした煙草を買いに、コンビニまでわたしを一緒に連れ出したり。

 普通のひとっぽくて、・・・ううん違う。“仕事”を離れている間の彼は、ただの相澤渉でいいんだもの。お休みの日ぐらい好きにするべきだわ。何もしない贅沢なんて寧ろ、微笑ましいぐらい。
 彼を安ませてあげるのは、わたしの役目でありたい。以前よりもその気持ちは強くなった気がする。

 渉さんが泊まる夜、外泊していた藤君は。今では、普通に居たり居なかったり。彼が居るのを愉しんでいるのは実は渉さんなんじゃないかと、・・・この頃思う。声を上げるなと命令しながら、ひどく苛めるのだから。



 渉さんがわたしの為に創ろうとする穏やかな日々。
 セルドォルという居場所を捨てさせても、貴方はわたしを守りたかった。
 わたしごと捨ててしまうほうが、いっそ楽だったでしょう。
 けれど貴方は。

 道連れにされるのを選んだのはわたしです。
 その覚悟もあるんです。

 だから一人で背負わないでください。
 優しさだけを見せないで。

 ・・・不安になってしまうんです。
 自分だけ何も知らずに貴方がひとり、・・・わたしの盾になって斃(たお)れてしまいそうで。