だいぶ気持ちも落ち着いて来て、今更な疑問を口に出してみる。

「渉さん、藤君に訊いたんですか? わたしが海鳴り亭にいるって」

「・・・今日は帰るつもりだったからな。通り掛かりだ」

「本当にびっくりしました・・・。なんかまだ、半分夢みたい・・・です」

「なら確かめてみろ」 

 腰に腕が回され、ぐっと掴まえられた、と思った次の瞬間には。
 熱い吐息と絡みつく舌で口の中が隙間なく、埋め尽くされていた。少しずつ角度を変えては、より深くなるキス。離れては繋がり離れては繋がり、いつの間にかシートに倒され、両手も固く指を絡めて繋ぎ合っていた。
 弱い舌先を責められると、くぐもった喘ぎが漏れて。更に激しく貪られる。息も絶え絶えになる程のキスを繰り返し、不意に離れた唇は耳から首筋を辿った。

「・・・・・・あ、だめ、・・・です・・・」

 飛びかけた理性が、今はまだ車の中だという事を思い出させる。薄い春ニットの裾から渉さんの手が入り込んで胸に触れたのを、どうにか思い留まらせようと。身をよじる。

「わたるさん、だめ・・・、ここじゃ・・・っ・・・」

「・・・聞けんな」

 無慈悲な気配を漂わせた彼に、ニットごとたくし上げられそうになって。

「若頭代理、・・・その辺で」

 運転している坂下さんの冷めた声が、あまりに絶妙なタイミングだったから。ある意味、一番の強者は坂下さんかも知れない。・・・と妙な感心をしてしまったのは、邪魔をされて至極不機嫌な渉さんには内緒だけれど。






 マンションに戻るのだとばかり思っていたら、着いた先はどこかのシティホテルだった。
 部屋に入るなり、有無を云わせずベッドの端に手を付かされ、服を着たままで彼の言うなりにされる。

 バスタブの中でも、またベッドに移っても、懇願は一切聞き入れずにひたすらわたしを責め上げて。何度、果てさせられたかも憶えていない。最後の白濁の熱を躊躇なく、わたしの中に放ったあと。気怠さと微睡に包まれながら、渉さんの声を聴いた。気がした。

「・・・・・・ユリの店は辞めろ。もう明日から行かなくていい・・・織江」



 低く、重く沈み込んでいく彼の声を。・・・・・・夢うつつに。