その後も、高津さんには果歩ちゃん流の質問攻めが続いたけれど、さらりと受け流して殆どを煙に巻いていた印象だった。
 10時半を回って由里子さんがお開きを宣言し、お店の外で解散。乗り物組の果歩ちゃん達は駅方面へと小さくなった。

「織江ちゃんは、お迎え来るんでしょ?」

「はい。もうすぐ来ると思うので大丈夫です、由里子さん」

「迎え、って彼氏?」

 175センチくらいは有りそうな身長の高津さんが、不意にわたしを見下ろす。Tシャツにジーンズのラフなスタイルなのに、立ち姿がとても様(さま)になるひとだな、と思った。

「えぇと、同居してる遠い親戚の従兄弟(いとこ)・・・というか。住んでる処は駅が近くないので、毎日送り迎えをしてもらってるんです」

「そうなんだ。俺がいつもラストまで居られれば、送ってあげられたね」

「あ、いえ」

 大した事でも無いように自然にそう話す彼。

「結城さんて」

「はい?」

「歳上には敬語? 田村さんとかには普通に話してるでしょ」

 クスリと笑われた。

「すみません、習慣で・・・」

「じゃあ、ご両親の育て方が良かったんだね」

「あ・・・いえ。特には」

 笑顔なのに。どこかこのひと、・・・会話にそれほどの温度を感じない。

「あ、そうだ織江ちゃん。来週なんだけど、買い付けでイタリアに行くからちょっと留守をお願いねっ?」

 思い出したように由里子さんが、話の流れを変えてくれたのにホッとした。わたしの身上を知っているから敢えて、間に割って入ってくれたのだろう。

「晶、そろそろ行くわよ? 織江ちゃん、お疲れさまねぇっ」

 腕を引っ張るように急かす由里子さんを、高津さんは、やれやれと言った表情で肩を竦める。

「お休み結城さん。・・・気を付けて帰って」

 お休みなさい、と返そうとして。わたし達の目の前で歩道越しに、一台の黒のクラウンが静かに走りを停めた。
 後部の濃いスモークウィンドウが音も無く下がり、海鳴り亭の照明が中に座っているひとの横顔を鮮明に浮かび上がらせている。

「・・・乗れ、織江」


 ・・・・・・ひと月以上も。待って、待ち続けた愛しい貴方の。今まで見た事もないような、冷たく凍てついたその横顔を。