花を散らした桜に替わって、沈丁花や躑躅(つつじ)が可愛らしく街路を彩り始めたある日。セルドォルに牧野君の代わりの、新しいメンバーが加わることになった。

「高津晶(たかつ・あきら)君。あたしの知り合いの紹介なの。彼、バイト掛け持ちしててね、1時から6時半までなんだけどその分、シフトの融通利くから。宜しくね、皆んな!」

 はつらつとした由里子さんが連れて来た彼と、バックヤードで全員の初顔合わせ。

「高津です、宜しく」

 にっこりと爽やかな笑顔が印象的だった。
 訊けば年齢は、わたしの二つ上で26歳。韓流スターでいそうな、すっきり系の好青年で。果歩ちゃんのテンションは史上最高クラスだったかも知れない。

「田村果歩、ハタチですぅ。高津さんヤバイくらい、カッコイイですっ、彼女いますっ?!」

「んー、まあ」

「ですよねーっっ」

 ソウタ君の存在をそっちのけで残念がる果歩ちゃん。

「・・・・・・東谷(ひがしだに)野乃です。宜しくお願いします・・・」

 人見知りな野乃ちゃんは。高津さんの顔も見ることさえ無く俯いたまま。

「田村さんと、東谷さん。宜しくね」

 名前と顔を確かめるように、高津さんは二人に穏やかな笑みを向けた。

「結城さんも」

 左手を差し出されて、釣られるように片手を伸ばす。・・・わたし、名乗ったかしら。

「あの、結城織江です。宜しくお願いします」
 
 物腰も柔らかくて優しそうに見えた。
 気のせい・・・? 目の奥が本気で笑っていない、というその一点を除いて。

「それじゃ果歩ちゃん、高津君に仕事の段取りを教えてあげて? 野乃ちゃんは通販、お願いね」

「はぁいっ」

 由里子さんに言われ、語尾にハートマークが五つはくっ付いていそうな快活な返事とともに、果歩ちゃんは彼を連れて店頭に戻る。
 デスクスペースで野乃ちゃんがパソコン作業を始めたから、由里子さんはわたしに目配せをして裏口から外に出た。