『他に、何か言われでもしたか』

 全て白状しろと淡々とした口調の裏に威圧感を込めて、尋問は続く。
 案外・・・渉さんて独占欲が強いかしら。そんな風に、わたしを自分のものだと主張されたことが無かったから。くすぐったいような、・・・もっとがんじがらめに征服されたいような。

「その・・・牧野君が」

 彼の最後の告白を思い返して、慎重に言葉を選びながらわたしはそれを伝えた。

『・・・役に立つ、か。相変わらずいい度胸だな』

 電話越しに、不敵そうな笑みを滲ませた気配。

『まあ毒になるか薬になるか、いずれ試してやっても構わんが』

「・・・わたしは、出来たら諦めて欲しいです」

『牧野が本気だったらの話だ、織江が気にすることでも無いだろう』

 わたしが少し非難めいて呟いたのを、渉さんはさらりと躱した。

『それより・・・もうしばらく帰ってやれん。・・・済まんな』

「そう・・・ですか」

 まだ。貴方に逢えない。いつ。逢えますか。喉元まで出かかって。

 声が聴けただけでも嬉しい。それは本当なんです。でも。貴方に抱き締めてもらえないと、心が寒くて寒くて凍えてしまいそうなんです。寂しくて寂しくて、ウサギみたいに死んでしまいそうなんです・・・・・・。

『・・・泣くな、織江』

 耳元に響いた静かな声はずい分と優しかった。
 嗚咽も漏らしていないのに、渉さんには分かってしまった。
 眸から溢れて止まらない、わたしの涙。
 口許を覆って必死に堪えても。逢えなかった分、今すべて堰を切ってしまったように。

『必ず帰る。・・・お前を一人にはしない。泣かずに待っていろ』

「・・・・・・はい」

『いい子だ』

 ぐずぐずの鼻声でようやく返事が出来たわたしに、いつもの声音で。傍に居たら、きっと目を細めて貴方は髪を撫でてくれたでしょう。

 
 それからわたしは、今日だけごめんなさい、と瞼が腫れるほど泣き続けて。
 「ブサイクすぎて、笑う気にもなんねーよ」と、冷たい呆れ顔の藤君に、同じくらい冷えてそうなタオルをたくさん用意されたのだった。