『・・・俺に何度云わせれば、気が済む』
スマートフォンから聴こえる彼の声は不機嫌そのもので。
藤君に、わたしが牧野君に抱き逃げされたと見たままを報告されたらしい渉さんから、電話があったのは送別会の数日後の夜だった。
不可抗力です、・・・渉さん。
心の中で力なく抗議してみる。
『顔見知りだろうがユリだろうが、簡単に気を赦すな。お前は迂闊すぎる』
「はい・・・。ごめんなさい」
やっと久しぶりに聴けた渉さんの声は。お説教モード全開だった・・・・・・。
旅行から帰って以来、もう二週間以上、渉さんはマンションに戻っていない。
帰る前には必ず電話をくれるという暗黙のルールが出来ていて、だから着信があった時は嬉しくて嬉しくて、安心して。涙が零れた。
ずっと心配だった。毎日祈ってた。渉さんが今日も無事でいますようにって。
信じていたけれど。由里子さんの言葉にも、とても励まされたけれど。それでも付きまとう不安と毎日戦っていた。
逢いたくて逢いたくて。どうしても堪えられない夜は、渉さんのシャツを胸に抱いて眠った。藤君に知られないよう何度も泣いた。
声だけでも聴きたい。でも貴方は。わたしから掛けるのを許してくれない。待つしかなくて。あの腕に抱き締めてもらえるのをひたすら待つだけで。・・・本当は、心が擦り切れそうだった・・・。
渉さんからの電話をどれだけ心待ちにしていたか。やっと逢える、一分でも一秒でも速く逢いたい、逢いたいです渉さん・・・!
それなのに。第一声が。
『お前、どうして牧野と最後まで二人で居た?』
わたしが電話に出た途端、いきなりそれだった。
口から出かかっていた彼の名前がするりと引っ込み、背筋が次第に冷気を帯びていく。耳に当てたスマホの向こうからは、煙草の煙を逃してでもいるのか、ふうっと長い吐息が聴こえた。
「・・・あの、果歩ちゃん達は電車の時間もあって先に帰りましたし、藤君の迎えが来るまで一緒に居るって牧野君が・・・」
恐る恐る。
『挙句、好きにされた訳か。俺に何度云わせれば気が済む。・・・簡単に気を赦すな、お前は迂闊すぎる』
「はい・・・、ごめんなさい・・・」
『男は所詮、本能だけの動物だと教えてやった筈だがな。・・・どうやら俺の躾が足りて無かったか?』
一段低くなった声音に、もうしどろもどろで。
「・・・あの、本当にごめんなさい。油断してたのはそうなので、これからはもっとちゃんと、気を付けます、ごめんなさい」
自分の部屋でクッションの上に正座をして、見えてないだろうけれど猛反省。
『二度と俺以外の男に気安く触らせるな。・・・分かったな』
きっと目の前に居たら、上から怖い顔で睨まれていそうな気配で。厳しく言い渡された。
スマートフォンから聴こえる彼の声は不機嫌そのもので。
藤君に、わたしが牧野君に抱き逃げされたと見たままを報告されたらしい渉さんから、電話があったのは送別会の数日後の夜だった。
不可抗力です、・・・渉さん。
心の中で力なく抗議してみる。
『顔見知りだろうがユリだろうが、簡単に気を赦すな。お前は迂闊すぎる』
「はい・・・。ごめんなさい」
やっと久しぶりに聴けた渉さんの声は。お説教モード全開だった・・・・・・。
旅行から帰って以来、もう二週間以上、渉さんはマンションに戻っていない。
帰る前には必ず電話をくれるという暗黙のルールが出来ていて、だから着信があった時は嬉しくて嬉しくて、安心して。涙が零れた。
ずっと心配だった。毎日祈ってた。渉さんが今日も無事でいますようにって。
信じていたけれど。由里子さんの言葉にも、とても励まされたけれど。それでも付きまとう不安と毎日戦っていた。
逢いたくて逢いたくて。どうしても堪えられない夜は、渉さんのシャツを胸に抱いて眠った。藤君に知られないよう何度も泣いた。
声だけでも聴きたい。でも貴方は。わたしから掛けるのを許してくれない。待つしかなくて。あの腕に抱き締めてもらえるのをひたすら待つだけで。・・・本当は、心が擦り切れそうだった・・・。
渉さんからの電話をどれだけ心待ちにしていたか。やっと逢える、一分でも一秒でも速く逢いたい、逢いたいです渉さん・・・!
それなのに。第一声が。
『お前、どうして牧野と最後まで二人で居た?』
わたしが電話に出た途端、いきなりそれだった。
口から出かかっていた彼の名前がするりと引っ込み、背筋が次第に冷気を帯びていく。耳に当てたスマホの向こうからは、煙草の煙を逃してでもいるのか、ふうっと長い吐息が聴こえた。
「・・・あの、果歩ちゃん達は電車の時間もあって先に帰りましたし、藤君の迎えが来るまで一緒に居るって牧野君が・・・」
恐る恐る。
『挙句、好きにされた訳か。俺に何度云わせれば気が済む。・・・簡単に気を赦すな、お前は迂闊すぎる』
「はい・・・、ごめんなさい・・・」
『男は所詮、本能だけの動物だと教えてやった筈だがな。・・・どうやら俺の躾が足りて無かったか?』
一段低くなった声音に、もうしどろもどろで。
「・・・あの、本当にごめんなさい。油断してたのはそうなので、これからはもっとちゃんと、気を付けます、ごめんなさい」
自分の部屋でクッションの上に正座をして、見えてないだろうけれど猛反省。
『二度と俺以外の男に気安く触らせるな。・・・分かったな』
きっと目の前に居たら、上から怖い顔で睨まれていそうな気配で。厳しく言い渡された。



