君は世界を旅してる



昼休みのあと、5時間目の授業は現代文だった。
黒板の文字をノートに写しながら眠気と戦っていると、後ろからツンツンと肩をつつかれた。

「ねえ真子、昼休みどこ行ってたの?トイレにしては長くなかった?」

小声でそう尋ねてきたのは、後ろの席の青木千尋(あおきちひろ)。いつもこの席で一緒にお弁当を食べている友達だ。

「あ、ごめんごめん。混んでたから1階の職員用トイレ借りたんだ」

「ふうん」

咄嗟についたにしては、我ながらもっともらしい言い訳だと思った。

「あ、ねえ千尋。ちょっと気になる男子がいるんだけど」

「え!?なに、授業中に恋バナ!?」

「は!?ち、違う違う!ただどんな人なのか気になっただけで!千尋なら知ってるかなって!」

必死に顔の前で手を振った。
どこの誰かも知らないような人なのに誤解されてはたまらない。

「あやしー。誰よ。名前は?」

「え、わかんない」

「え?何組の人?」

「し、知らない」

「誰と仲良いとかは」

「知らない、なあ」

「……はあ?」

思いっきり呆れた顔をされてしまった。
交友関係が広い千尋ならわかるかと思ったのだけど、手掛かりが何もないことに今気付いた。

「ノーヒントで誰か当てろって言われてもわかるわけないじゃん。どこの誰よそれ」

「う、ごめん」

いたたまれなくなって下を向いていると、突然机がバンっと音を立てた。

「こーうーのー」

「わ!せ、先生……」

「授業を聞かんかコラァ!!」


先生にこってり怒られた私は、その後の授業をとても真面目に聞いた。
だけど頭の中は、授業の内容とは違うことが占領していたのだった。