「それで、どうする」
「うーん、2016年4月5日の13時頃、私のお母さんがいた場所、かな?」
「それでいくか」
立ち上がった一条くんは軽くズボンを払って、こちらに向けて両手を差し出した。
向かい合うように立って、その手に私の手を重ねた。すると、ぎゅっと強く握られる。
途端に胸がざわざわとしてきた。
今から、私が知らないお母さんのことを知るのだ。緊張してドキドキする。
それに加えて、しっかり握りしめてくれる一条くんの両手の感触をやけに感じ取ってしまって。
初めて過去に連れて行ってくれたときよりもずっと、胸が高鳴っている。
「いいな」
「う、うん!」
2人で目を閉じる。
眩しい光みたいなものが辺りを取り囲んだような気配を、瞼の向こうで感じる。
ほぼ同時に、自分の体から重力が失われる―――。
「あ、桜が……」
目を開けると飛び込んできたのは、見事な桜のピンク色だった。
不思議なことではない。私達は今、秋から春へと移動してきたのだ。
見渡すと、カフェのような場所のテラス席のようだった。
天気が良く気温もちょうどよくて、満開を迎えた桜が綺麗に並んで絶景だ。
「どこのカフェだ?ここ」
日差しがまぶしいのか、目を細めた一条くんがカフェの店名が書かれたプレートを見上げている。
一緒になって見上げてみると、なじみのない名前だった。
「家の近くじゃないのかも。あそこの道路とかも見覚えないし……」
こんなところで、お母さんは一体なにをしたんだろうか。
「あ、あそこ!あれお母さんだ」
「お、いたか」
テラス席の1番端、目立たない席にお母さんは1人で座っていた。
コーヒーのようなものを飲みながら、本を読んでいるようだった。
「読書?」
「本読むの好きなんだよ、お母さん。家でもよく読んでた」

