「いなくなったのは夏なのに、これを書いたのは春なんだって。なんでそんな時間差があるんだろう」
困らせるだけかもしれない。こんな話を突然聞かされて、一条くんはどう思うだろう。
「それにね、私の誕生日が忘れられない日だなんて、今までの誕生日はそんなの言ったことなかったんだよ。なんか引っ掛かって。誕生日だからじゃなくて、他に忘れられない理由があるんじゃないのかな」
一条くんの顔を見た。彼は、なんとも言えない顔をしていた。
困ったような、驚いたような。
それでも、ここまで話してしまったのなら、もう後戻りは出来ないと思った。
「なにより、お母さん、再婚したいとか良い人がいるとか言ったことないし、そんな素振りもなかった。私との仲も、上手くいってたの。……絶対なにかおかしい」
全部、ただの私の推測でしかない。それでも、どうしても納得が出来ないのだ。
気まぐれでこんなことをする人ではないし、そもそも私だって、こんなに簡単に置いてきぼりにされる謂われはない。
「この3ヶ月ずっともやもやしてたの。学校にいても友達と遊んでても、ずーっとこの手紙のことが頭にあって、すっきりしなくて。だけどどうしようもないし、探しようもなくて」
「……この、おばあちゃんの家には」
「行ってみたよ、1回だけ。すぐ帰ってきちゃったけど。お母さんのこと聞いてみても、どこにいったか何をしてるか、何にも知らないって」
空がゴロゴロと声をあげ始めた。
重たい雲はさらに黒い色を濃くしていて、どんどん世界を飲み込んでいくようだ。
雨が降るのかもしれない。
「それで、俺に協力してほしいことって……」
「うん。2016年の4月5日に、私を連れて行ってほしいの」
2人きりの屋上には、冷たい風と異様な空気が流れ込んだ。

