昨日、ちょっと一条くんと話す機会があった私は、彼のとんでもない秘密を知ってしまった。
絶対誰にも言うなと念押しに念押しをされて、もちろん誰にも言うつもりなんてない。
その代わりじゃないけれど、私も今日、彼に秘密を打ち明けるつもりだ。
協力してほしいことがある。
そう言われた彼は、喜ぶでもなく邪見にするでもなく、頭の上にはてなマークをたくさん浮かべていた。
まあ当然の反応だろう。私達は、昨日初めて会話したばっかりだ。どうして自分に?そう思ったんだろう。
「とりあえず、明日の放課後にまたここに来て」と言って、無理矢理今日の約束を取り付けた。
そういうわけで、今日の放課後、あの屋上で、今度は私が一条くんにネタ晴らしをするのだ。
カバンの中身をちらっと確認して、小さく溜息をついた。
これで良かったんだろうか。
世の中には、知らないほうがいいことがある。知って後悔することがある。
自分は、そうはならないだろうか。
先生の声を右から左へと受け流しながら、ぼんやりと窓の外を見つめた。
まだ誰もいないグラウンドには風が寂しく通っていて、昨日あんなに爽快だった空は、どんよりと重たそうな雲を抱えていた。
授業の合間の休み時間、4組の教室をちらっとのぞいてみた。
「あ、いた」
一条くんは、窓際1番後ろの席に座って頬杖をついていた。
次の授業の用意を机の上に広げて、ただ時間が過ぎていくのを待っているみたいな様子だ。
せっかく1組の教室から離れたここまで来たんだし、思い切って話しかけてみようか。もしかしたら、思いっきり迷惑そうな顔をされるかもしれないけど。
どうしようか迷っていると、ふいに一条くんがこっちを見た。
(おーい)
心の中で呼びかけて小さく手を振ると、一条くんはぎょっとした顔をした。
すぐに慌てたようにまわりを見渡して、こっそり手をしっしっとやってきた。
それがなんだか無償に面白くて、近付いてやろうかと思ったとき、肩をポンと叩かれた。振り返ってみると、去年同じクラスだった子が立っていた。
「真子じゃん!久しぶりー!どしたの、4組の誰かに用事?」
「あ、久しぶり。用事ってわけじゃないんだけど……」
再び教室の奥へ視線を向けたら、一条くんは席からいなくなっていた。
……逃げられた。
ちょっとだけ残念な気持ちになって、自分の教室に帰ることにした。
そっか、秘密がばれたら大変だもんね、仕方ない。急に私と仲良くしてたら怪しまれるかもしれない。
一条澪、3年4組、窓際の1番後ろの席。
ちょっとだけ情報が更新された。

