君は世界を旅してる


自分の頭に描いていた回想シーンとまったく同じ光景が、現実に目の前で起こった。
つまりは、何もない空間に突然、一条くんが姿を現したのだ。

「………」

ぽかんと口を開けて、ただただ驚いて一条くんを見上げる。

「ふー。って、うわ!?」

私に気付いた一条くんが、聞いたことないような声を上げながら後ずさった。
バケモノを見るような視線を向けられる。

「な、なにやってんだよ、こんなとこで」

「い、一条くんこそ」

「俺はちょっと用事があって……。さっきまで誰もいなかったのに、びっくりするだろうが」

屋上の鍵を開けたのは、微かによぎった予感の通り一条くんだったらしい。
ちょっと用事が、”過去”にあったのだろう。

「あーびっくりした……」

寿命縮まった、とぼやきながら、一条くんは起き上がった私の隣に座り込んだ。
避けられなかったことに、ほっとしてる自分がいる。

「………」

「………」

かといって、何を話したらいいのかもわからなかった。
大樹さんのことで協力してくれた日、少しは話せたものの、まだ完全に前みたいには打ち解けられないのだ。

だけど、なぜかわからないけど、今を逃したらもう二度と元には戻れない気がした。
それだけはどうしても嫌で、ここを動けない。

なにか、なにか話しかけないと。
一条くんが立ち上がって帰ってしまう前に。
焦って考えれば考えるほど、何を話したらいいかわからなくなってくる。

「あ、あの、……ごめん」

そうして自分の口から出た言葉は、謝罪だった。

「なにが?」

「え、あ、なにがだろう?」

「はあ!?」

ああもう、違う。
謝らないといけないことが、たくさんあるのに。
もっと言いたいことも、いっぱいあるのに。