「今日はどっち回り?」



ジメジメした風が吹いた。




「左」




そっちのが、長く感じたから。




そう言ったら、頷いた橋森くんは左に歩き出す。




後ろじゃなくて隣を歩きたくて、走って追いついた。





隣に立ったら、私を見てニコッと笑ってくれる。




丁度いいくらいの、いや、少し遅いくらいのペースでのんびりのんびり歩く。




「ねぇ、りっちゃん」




石ころを順番に蹴りあいながら歩いていたら、下を向いたままボソッとつぶやいた。




「何?」





「退院、いつ頃?」




石ころと共に言葉が返ってきたから、私も同じようにする。




「1ヶ月以内にはって言われたよ」




やっぱり、ここにくるのは負担なのかな。




「そっか…」





受け取った石を、また橋森くんに蹴る。




「転校、したほうがいいと思う?」



私は、学校のこと何もわからないから。





「え?」




私を見るから、石が橋森くんを超えて溝に入ってしまった。





「…ままに、言われた。転校しなさいって」



「…するの?」




セミがミンミンとなく音と、私たちの声しか聞こえない。





「わかんないから、した方がいいかって聞いてんじゃん」




わかんないんだよ。本当に。




「俺は…して欲しくない。けど、りっちゃんのためを思うなら、した方がいい」





俯いて、歯切れ悪く言う。




「…なんで?」





しない方がいいって、言って欲しかった。





「辛かったことをせっかく忘れられたのに、わざわざ思い出しに行かなくていいと思ってる。学校に戻っても、りっちゃんには辛いことだらけだと思う」



微妙な距離を保って、立ち止まる。





「そっか…」




そんなに、しんどいのか。




「けど、俺は、やだかな」




話を終わらせて、楽しい話をしようと思ったのに、食い気味に言われてしまった。




「…なんで?」




「いや、何でもない。俺のことは関係ないよな」




さっきの私のように笑って、目が合った。



暗くて、はっきりとは見えないけど。




「行こうか」




あんまり長くいると疲れちゃうでしょ、と先を進む橋森くんを、できる限りの大声で呼び止めた。




「ある!!!」




「…え?」



「関係、ある!」





覚悟は、決まったつもりだよ。





辛いことも、嫌なことも思い出していい。





だから、橋森くんの隣にいたい。





「…ある、か」




立ち止まって振り返る橋森くんの横に駆けて行った。





「ある!!」




それしか言えない自分に腹が立つ。