こんな私が、恋したみたいです。

携帯も飽きたなぁって頃に、ママが来た。



手ぶらで。




「律ー久しぶりね!」




「うん、久しぶり」




なんだか違和感を感じるけど、それは無視して笑ってみせた。




「あのね、今日は律に話があって来たの」





椅子に座ってすぐに真面目な顔になって本題に入るママ。




「なあに?」




そうだろうとは、思っけど。





「律、転校しましょ」





「…え?」




言われた言葉は、思ってもいなかった。




「あんな学校、もういられないもの」





ママは平然と口を開く。





「べつに…私なら、大丈夫だよ」





弱々しくなってしまった。





「ううん。大丈夫じゃない」





「なんで?」





ママには、わからないよ。





「だって、もう律にこんな思いさせたくないもの」





ごもっともな正論を振りかざされた。





「ううん、私は大丈夫だよ」





橋森君と、もっと一緒にいたいもん。





…え?




「ダメよ!引っ越すんだから!」






私今、橋森くんと離れたくないって言った?





「…そう」




思わず出た感情に、ママの声がいきなり入ってこなくなる。





「聞いてるの!?」





「聞いてる」




口だけ、ちゃんとしていた。




「嘘ね。こっち見なさい!!」





怒ったママは、私の前髪をひっつかむ。




そのまま顔を上げられて、いやでもママと顔を合わせなくてはならならなくなった。





「…ごめん」




額が、いたい。





「いい!わかった!?引っ越し!転校!」





「やだ、よ」




橋森くんは、喧嘩するなってゆったけど。





ごめんね、約束、破っちゃう。






「はぁ!?律はママの言うこと聞いてればいいのよ!」





「やだったらやだ。優は?こんな時期に引っ越しで転校なんてかわいそうだよ」






自分のせいにしないで、妹のせいにするんだから、私はずるい。




「うるさいわね!それだけだから!」





埒があかないと思ったのか、そのまま、乱暴に私を離して帰ろうとする。




「待って!」




その腕を、間一髪引き止めた。





「悪いけど、ママの言うこと、聞けない。しんどいのはわかってるけど、学校戻りたいから」





橋森くんと、同じところにいたい。





「あんた、誰のおかげで生きてると思ってんの?」




そっか、わかったかもしれない。





「それは、大人のエゴだよ。高校生に生産能力はないんだから。それ言えば従うとでも思ってる?」






きっと、私は、橋森くんが好きなんだ。





「お金払ってくれてることは感謝してる。入院代だって高いのもわかってる。だけど、何かにつけてママはお金は私がお金は私がって、そんなの仕方ないじゃん。そんなことでやりたいこともできないなんて、子供はみんな親の操り人形みたい」




ビンタされるかもしれない、いや、それじゃ済まないかもしれない。




怖いけど、あとで橋森くんにギュってしてもらおうって思ったら、いやではなかった。





「あっそ。じゃ、今のところで次何があっても知らないからね。泣きついたって助けないよ」





すっごい怖い目で、わたしを睨む。




「うん」




だけど、なぜか、自信を持ってママを見ることができた。





「じゃあ、ママ忙しいから」





スタスタと、病室を出て行くママに、叫んだ。




「面会拒否、解除しとくね!」




少し足が止まったけど、勝手にすれば、と言っていなくなった。