こんな私が、恋したみたいです。

それだけ言ったら、りっちゃんのお母さんは病室に戻ろうとする。




「あの!」



言い足りない。言われてばっかじゃダメだって、知ってる。





「何?」




怪訝そうな顔をして、でも振り向いてくれた。




「りっちゃんの記憶、戻さないほうが良いと思います」




だって、あんなに毎日泣いて、あんなに辛い思いして。




せっかく綺麗さっぱり忘れられたんなら、思い出さない方がいい。





………俺のことも含めて。





「そのつもりよ。あと、転校させるつもり」




下を向いて、ボソッと呟いた。




「転校…?」




「ええ。誰も律のことを知らない街にね」




そう言って、扉の向こうへ消えてしまった。





「…転、校」




1人でつぶやいたって、誰も言葉を拾ってくれない。




「…戻ろっかな」




今からのんびり帰れば、休み時間に学校に着きそう。




「………はぁー」




大きな溜息を吐いて、来た道を引き返した。