チャイムが鳴って、あの女が入ってきた。次の授業は英語だ。











「今日はあんたたちが苦手な長文の問題をするわよ。制限時間は30分ね。プリントもらった人から始めて」




その女はプリントを配って、椅子にどかっと座った。そして、汗ではりついた黒く長い髪を、その女は片手でダルそうに払いのけた。




俺はこんなに人を好きになったのは、始めての経験だった。学校に来て、あいつに会えるだけで嬉しい。


その女の指からは、いつしか婚約指輪が外されていた。距離を置こうと言われた彼氏のことを、1日中考えたくないのかもしれない。


それでもこの女は、あの彼氏のことを待っている。



俺はこの女と付き合うことは出来ない。この女には大好きな彼氏がいるし、俺はもうすぐ“ここ”を去る。






ーーーーー俺が好きな女の為に、唯一出来るかもしれないことは、きっと1つだけだ。