がつんっ!

何かが固いものにぶつかる音。

ごんっ!がんっ!

これはまあ、痛そうだ
と、思っているのもほんの一瞬で、どうやらこの音は近くでなっているらしい。
勢いよくさっき出てきた教室のドアのほうに目をやると、先ほどすれ違った黒髪の男性がふらふら歩いている。
手にはタブレット、身長も高く服装も制服ではないということは、生徒ではないことは明らかだろう。
彼がぶつけているところは主に頭。うつむいているのもあるが、どちらかというと猫背で前かがみ気味なのが原因のようだ。

「あ、あの?!大丈夫ですか?!」

これ以上はさすがにまずいのではと声を掛けてみると、彼はぶつけすぎてずり落ちた眼鏡をかけなおしている最中だった。

「...ああ、新任の。すみません」

クールな見かけにもらず、声はいかにも温和という雰囲気が漂っていた。

「自己紹介してませんでしたね...私は海城月望(うみしろつきの)、といいます。身長172cm、体重60kg、BMI指数は20.3、ローレル指数は.....」

「あー待って!!ストップ!!....大丈夫ですか?頭ぶつけて変な風になってません?」

「ぶつけるのはいつものことなのでダイジョブです」

ぐっと親指をたてる、いわゆるグッドサインは彼にさせると信憑性がないことだけは、このとき理解した。

「えーと、ああ。忘れてました、担当は数学です。どうぞよしなに」

ゆっくり頭を下げる姿をみると、やはり温厚なんだろうなということはわかる。
そこまできて、教室から女子生徒が頭を出して あっ と声を漏らした

「クラゲせんせーなにやってるの?!もしかしてさっきの音もクラゲせんせーの?!」

「クラゲ...?」

「ああ、あだ名ですよ。海と月で海月でしょう?だからクラゲ先生なんですよ」

「な、なるほど...」

もうその解答で納得するしかなかった。女子生徒は早くとせかしている。

「あ、すいません止めてしまって...お気をつけて」

「はい、ありがとうございます。」

会話を終わらせて歩いていると、また頭をぶつけたりする音が聞こえたと思ったら今度は体を扉にぶつけたようで、生徒全員による笑いが教室の外まで漏れてきた。
.....これは名前がクラゲついてなくても、あだ名はクラゲ先生だったんだろうなと心の中でつぶやいた。